「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」開催 オープニングイベントにアンバサダーのLiLiCoら登壇

(2023年3月18日12:30)

第3回「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」開催 オープニングイベントにアンバサダーのLiLiCoら登壇
左から宮武由衣監督、浅川紫織、宮尾俊太郎、LiLiCo (17日、都内で)

「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」の開催が始まった17日、都内でオープニングイベントが開催され、アンバサダーのLiLiCoが「東京SWAN 1946 ~戦後の奇跡『白鳥の湖』全幕日本初演~」に出演しているダンサーで俳優の宮尾俊太郎、浅川紫織、宮武由衣監督とともに登壇し、撮影の裏話や、作品の魅力について話した。さらに「通信簿の少女を探して〜小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今〜」、「カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~」、「アフガンドラッグトレイル」の舞台挨拶も行われた。

■「東京SWAN 1946 ~戦後の奇跡『白鳥の湖』全幕日本初演~」
(登壇者:LiLiCo、宮尾俊太郎、浅川紫織、宮武由衣監督)

「東京SWAN 1946~戦後の奇跡『白鳥の湖』全幕日本初演~」は、焼け跡の東京で食べ物も稽古着もない中、手探りで作り上げた奇跡の舞台「白鳥の湖」の歴史秘話に迫るドキュメンタリー。

宮武監督は「終戦後にこんな出来事があったのかと驚きました。どん底にいた日本人が高尚であったであろうバレエでみんなをフィーバーさせたのはなぜなのか?とても知りたくなった」と企画理由を明かした。

本作を鑑賞したLiLiCoは「この映画から皆さんがどんな言葉を持って帰るのか?楽しみです」と期待を込めていた。

宮尾は「楽譜すらない戦後の大変な時に、焦土と化した道を歩いて稽古場に行ったという当時のダンサーたちの情熱と動機を知りたかった」と本プロジェクト参加の理由を述べて「とはいえ当時のものをやる意義は何だ?との疑問が沸いた。当時の『白鳥の湖』は今に比べて洗練されておらず、今踊ると滑稽になるのではないかと。それを監督に話したら監督はフワッとしていて(笑)。宮武監督の『その理由を探りましょうよ!』というところから本当のドキュメントが始まりました」と回想。宮武監督は「私がフワッとしていたからか、宮尾さんは常に不機嫌でしたよね」と大笑いで暴露していた。

一方、浅川は「当時の『白鳥の湖』を踊るなんて経験は今までないことで光栄でした。当時の形を今表現できるのか?それを今やることに意味があるのか?と不安や疑問はありましたが、今後の自分に活かせるよう、勉強しながら真摯にやりました」と報告。宮尾は当時の資料や写真を見ながら踊りを掴んでいったそうだが「心で踊るとは何か?その答えを見つけなければいけない。そこから旅が始まった気がする。先人たちの写真を見たときに、ゾクッとした。当時の人たちは中途半端に生きていない。今回の旅を通して、生きるとはどういうことか?を考えさせられました」と糧を得たという。

当時と現在の踊り方の変化について宮尾は「資料が写真しかないので、それを元にフォルムや形を真似して再現をしたけれど、リフトひとつにしても形が違う。また現在の『白鳥の湖』の定番場面には登場しない人がいたりして、そもそも違う」と変遷に驚き。浅川は「衣装やシューズについても現代のように何でも可能な時代ではないので、ベースの流れで変わっていないところはあったとしても、踊るのが難しいところもあった」と実感していた。

クライマックスでは当時の「白鳥の湖」を宮尾と浅川が再現。宮武監督は「宮尾さんたちに『心で踊って欲しい』と何度もお願いしたりして嫌われていないかと思ったけれど、最後はエネルギーを発するように踊られていて『心で踊っている!』と思った。皆さんそれぞれが歴史の1ページを作るというような意気込みを感じました」と絶賛。完成した作品での当該場面を見て「涙が出た」という宮尾は、宮武監督から何度も「心で踊って!」と粘られたというが「結果的にいいものを引き出していただきました。宮武さんは素晴らしい監督です!」と称賛していた。 (3月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開)


■「通信簿の少女を探して〜小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今〜」
(登壇者:匂坂緑里監督 ゲスト:加藤登紀子)

第3回「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」開催 オープニングイベントにアンバサダーのLiLiCoら登壇
加藤登紀子㊧と匂坂緑里監督(17日、都内で)

オープニング作品として、令和4年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞受賞作品で、昭和23年の“通信簿の少女”を探す中で、日本が歩んだ戦後77年の断片を体験していく「通信簿の少女を探して〜小さな引き揚げ者戦後77年あなたは今〜」が上映。

上映後には、匂坂緑里監督と「引き揚」体験者として劇中でインタビューを受けた歌手の加藤登紀子が舞台挨拶を行った。

企画スタートから約6年。念願の公開を迎えて匂坂監督は「制作中は孤独な旅でしたが、完成して6年経ってみたら、こんなにも旅の仲間が増えているということに感動しました」と詰めかけた観客の拍手に感動。

本作について加藤は「本編の最後に“通信簿の少女”が登場した途端、私は鳥肌が立ちました。凄い経験を力に変えて生き抜いた方とお会いできた感動があります」と感激し「6年という時間をかけて素晴らしいドキュメンタリーになって良かった」と匂坂監督をねぎらっていた。

戦争を知らない世代にこそ見てほしいと願う加藤は「本当の歴史はディティールの中にこそあるもので、“通信簿の少女”を尋ねることで歴史には描かれていない事実が浮かび上がってくる。ウクライナの戦争が長引き、第3次世界大戦に踏み込むしかないという議論がなされる今だからこそ、『通信簿の少女を探して〜小さな引き揚げ者戦後77年あなたは今〜』が上映されるのは大変貴重なことです」と訴えていた。

匂坂監督は「周囲の人に“通信簿の少女”を探そうと思うと話すと、話を聞いてくれた方々が伴走してくれた。皆さんが“通信簿の少女”を探すことにモチベーションを感じてくれたことが、諦めない執念の原動力になりました。これは私だけの好奇心ではないと思えた」と回想。舞台挨拶最後にはその“通信簿の少女”に通信簿を返却するセレモニーが行われ「私に色々な世界を見せてくれた通信簿でした。ありがとうございました」と感無量の匂坂監督だった。


■「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」
(登壇者:佐井大紀 監督 ゲスト:宮台真司)

第3回「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」開催 オープニングイベントにアンバサダーのLiLiCoら登壇
佐井大紀監督㊨と宮台真司氏(17日、都内で)

「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」の佐井監督による最新作「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」は、かつて世間を驚かせた「永山則夫」「イエスの方舟」...。日本社会のエキストラと主役(カリスマ)に時を超えてマイクを向ける。映画祭初日に上映を迎えた本作の上映後には、佐井大紀監督と社会学者の宮台真司を招いて舞台挨拶を実施。

佐井監督は「若い方もいらして、諸先輩方もいらして...恐縮です」と詰めかけた観客に感謝し、宮台は「本当に若い方が多い。しかも女性もいて、女性はやはり感度が高いですよね」と感心していた。

宮台は「この作品ではATGや若松プロ作品などの1960年代後半のモチーフが再現されている。それは単なる模倣ではなく、時代がそれを反復しつつあるということ」と鋭く指摘。
本編ではカリスマへのインタビュー、国葬、永山則夫、イエスの方舟などが紹介されるが「今の若い世代は映画をストーリーで見ており、繋がり具合が唐突だとわかりにくいと思うようだが、それは映画を観るリテラシーが低いだけ。映画とは隠喩的に観る、対立構造で観るもの。カリスマが太陽だとすれば、エキストラは月。光を発するものと、光を発するものがないと輝けないもの。それが映画の主役とエキストラに平行移動されている。皆が輝きたいと思い、輝けるここではないどこかに出たいと願うが、出られないだろうで終わるドキュメンタリーだ」と分析した。

その「ここではないどこか」というテーマは近年国際的に描かれる事象だそうで、宮台は「ロウ・イエ監督の『シャドウプレイ』、パク・チャヌク監督の『別れる決心』もそうだが、本当の自分を回復しようとするが失敗して押し出される。しかしそれが美学であるという大和屋竺的なものを国際的に反復している。社会という船の座席を争っていたって、その船はしょせん沈む泥船であるということがやっとわかり始めたのかもしれない」などと語った。

大和屋竺作品好きという佐井監督は「鈴木清順監督の映画を振り返ると、そこには大和屋竺がおり、黒沢清監督や高橋洋のJホラーを振り返ると、そこにも大和屋竺がいる。大和屋竺を掘っていくと、ここではないどこか、自分とは何かというアイデンティティクライシスが見えてくる。彼が描き続ける、行き場のなさのようなものが僕の中で刺さりました」と影響を語った。

本作製作にあたり「ドキュメンタリーとは主観的な目線が出るメディア。取材対象者とのコミュニケーションを重ねていく中で、自分とは誰か?という不安が生まれ、自分もエキストラに過ぎないのではないかと思わされた」と打ち明けた。そして佐井監督は「エキセントリックな映画かもしれないけれど、誰にとっても自分の映画になるはずです。多くの方々に観ていただき、自分は何者か、そして今の社会構造を考えるきっかけになれば嬉しい」と期待した。

宮台は「人間とは反復の生き物であり、自分の考えはかつて誰かが考えもので、その反復の中でものを考える人と考えない人がいるだけ。考える人も実は何度も何度も反復されてきた。古きを訪ねて受け継がないと無駄な労力を使うだけ。受け継ぐことで新しいものを加えることが出来る。今のリソースを使って再構成することで新しいことを付け加えるためには継承が必要。それを佐井監督の作品は示している」と温故知新の重要性を説いていた。
(3月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開)


■「アフガンドラッグトレイル」
登壇者:須賀川拓 監督(オンライン)ゲスト:青木健太、ナザレンコ・アンドリー、秌場聖治 TBS外信部長

第3回「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」開催 オープニングイベントにアンバサダーのLiLiCoら登壇
オンラインで参加した須賀川拓監督(スクリーン)と、左から秌場聖治氏、青木健太氏、ナザレンコ・アンドリー氏㊨(17日、都内で)

昨年劇場公開された「戦場記者」の須賀川拓監督による最新作「アフガンドラッグトレイル」は、タリバン政権下のアフガニスタンで行われる薬物中毒者の取り締まりと同国の闇に迫る。映画祭初日に上映を迎えた本作の上映後には、中東調査会主任研究員の⻘木健太、政治評論家のナザレンコ・アンドリー、TBSテレビ外信部⻑の秌場聖治、そしてイギリスからリモートで須賀川拓監督が舞台挨拶を行った。

⻘木氏は本作について「印象的だったのは『希望が見いだせない』と言っているところ。タリバン政権下では女性は小6を過ぎたら教育制限をされるなど、未来を見通せない。しかし前政権時も状況が良くなっていないという意味では、この国の歴史的背景や歴史的背景を知ってみるとより深みを持って見られるはず」とアピール。

ウクライナ出身のナザレンコ氏は「戦争報道を見るとミサイル攻撃などの物理的戦いが映るが、戦争とは病死、凍死、PTSD、障害、貧困、麻薬普及をもたらす。この作品はいかに戦争が社会構造に害を与えるものなのか、とてもよく表していました。そして同国での麻薬問題は根深く、根本的解決をしなければと痛感しました」と絶賛していた。

一方、秌場氏から「一番緊張した瞬間は︖」と問われた須賀川監督は「夜の摘発の際には暗くて人の表情が見えないが、明るいところに行って改めて人々の表情を目の焦点が合っていない。こちらを襲ってくるのか、襲ってこないのか...。その心がまったく読めない。薬物がもたらす底知れぬ恐怖を突き付けられた気がした。彼らを救うにはどうすればいいのか︖考えても答えが出ないのが苦しかった」と打ち明けた。

⻘木氏は「タリバン政権下ではけし栽培は全面禁止だが、その活動資金の多くが薬物であるとの報告もあり、国として4億ドルくらいの収入になっているようだ。しかもけしは換金作物と呼ばれ、簡単に育てられて現金収入にも繋がる。そうなると農家は続けたい。しかしタリバンの最高指導者は禁止だという」と同国が抱えるジレンマを紹介。

須賀川監督も「⻘木さんの仰る通り、農家の現金収入は薬物で彼らにはそれ以外の収入がない。言葉は悪いが、彼らからそれを奪うと多くの人が職を失い、路頭に迷い、死んでしまう。しかもタリバン政権は麻薬に変わるものを提供できずにいる。それだけ薬物のシステムが根深いということ」と解説した。

最後に須賀川監督は「アフガンは帝国の墓場と言われている。⻄側諸国が来てメチャメチャになった国を蝕む薬物は⻄側に流れ、我々は⻄側諸国が作ったカメラを持って取材に訪れる。これではまるでマッチポンプだ。紛争地域や貧困地域を取材するたびに、自分たちが作った問題を自分たちに撮りに行くような感覚に襲われる」と明かし「我々先進国の人間ができることは、そういった国の問題は他人事ではないと捉え、いい方向に導くようにするのが大切だ」と訴えていた。
(3月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開)

■「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」開催場所と日程

TBSは魂を揺さぶる良質のドキュメンタリー映画の発信地となるべき立ち上げた、新ブランド 「TBS DOCS」 のもと、今年も「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」を開催。第3回目となる本映画祭は、【東京:ヒューマントラストシネマ渋谷/3月17日(金)~30日(木)】 【大阪:シネ・リーブル梅田/3月24日(金)~4月6日(木)】 【名古屋:伏見ミリオン座/3月24日(金)~4月6日(木)】 【札幌:シアターキノ/4月15日(土)~21日(金)】 と、前回を上回る規模で実施される。