「クラム」 米カウンターカルチャーを代表する漫画家ロバート・クラムの半生に迫った異色のドキュメント映画

(2022年2月18日16:15)

「クラム」 米カウンターカルチャーを代表する漫画家ロバート・クラムの半生に迫った異色のドキュメント映画
「クラム」(©1994 Crumb PartnersⅠALL RIGHTS RESERVED)(2022年2月18日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開)

アメリカのアンダーグラウンド・コミックを代表する漫画家でイラストレーター、ロバート・クラムの半生を追跡した異色のドキュメント映画。カウンターカルチャーを象徴するコミック「フリッツ・ザ・キャット」や「ミスター・ナチュラル」、「Keep On Truckin'」などで知られ、ジャニス・ジョップリンのアルバム「チープ・スリル」のジャケットを手掛けるなど、1960年代後半のアメリカで一躍脚光を浴びた。過激で辛辣な描写、さらには独特な性的描写のコミックを描き続けたクラムに密着して、クラムに影響を与えた兄、弟も含めた家族や美術評論家、画商、漫画家にインタビューしてクラムの異形の世界をとらえた1994年のドキュメンタリーで、日本では1996年の公開以来約25年ぶりに再公開される。監督はクラムの長年の友人で、クラムとストリングス・バンド「チープ・スーツ・セレネーダーズ」で活動し、後にアメリカの人気コミック作家ダニエル・クロウズ原作の「ゴーストワールド」(2001年)を撮ったテリー・ツワイゴフ。同作は1995 年にサンダンス映画祭グランプリ(ドキュメンタリー部門)、全米監督協会賞など数々の映画賞を受賞した。

「クラム」 米カウンターカルチャーを代表する漫画家ロバート・クラムの半生に迫った異色のドキュメント映画
「クラム」(©1994 Crumb PartnersⅠALL RIGHTS RESERVED)

フィラデルフィア・アートスクールの講演のシーンで、自身の最も有名な3つの作品を紹介している。「一番有名な作品」として「Keep on Trucking‘」(上の場面写真)を挙げた。「これを書いて10年、頭痛が続いている。弁護士に国税庁、悪夢だ」と語る。2番目はジャニス・ジョップリンのアルバム「チープ・スリル」のジャケットのイラストで、「バカ売れして、CBSから600ドル(現在のレートで約7万円)受け取って、原画は彼らに奪われた。最近サザビーズで2万1000ドル(同約240万円)で売れたそうだ」と皮肉たっぷりに紹介。3番目は「フリッツ・ザ・キャット」(下の場面写真)で「映画化されたからね。断っておくが僕はアニメとは無関係だ。彼らに勝手に利用されただけ。だから後年僕はフリッツを始末した。ダチョウ女にアイスピックで刺し殺される」といって笑わせた。カウンターカルチャーの代表格ならではのシニカルで歯に衣を着せぬトークもクラムの真骨頂だ。

「クラム」 米カウンターカルチャーを代表する漫画家ロバート・クラムの半生に迫った異色のドキュメント映画
「クラム」(©1994 Crumb PartnersⅠALL RIGHTS RESERVED)

クラムは1943年米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、海兵隊将校の父親とカトリックの母親の間に生まれた。兄チャールズ・クラムの影響を受けて子供の頃から漫画を描くようになる。兄は高校を卒業してから引きこもりになり精神安定剤や抗うつ剤を常用し「カントかヘーゲルしか読まない」と言うなど独特の屈折した感性を見せる。弟マクソン・クラムは絵を描いている。クラムは戦前のブルースをこよなく愛し、「古い音楽を聴くと人間の魂の最上の部分が聴こえる。今どきのはダメ」と言い切る。「歴史に残るアーティストになるという妄想に取りつかれたのが17歳」といい、女性に対する敵対心や独特の性的嗜好など、クラムの異形の世界が描かれていく。
「タイム」誌の美術評論家ロバート・ヒューズは同ドキュメントで「クラムは現代のブリューゲルだ。20世紀後半にようやくクラムが現れた。情熱や欲望につかれ、苦しみにのたうつ人間の諸相を描いている。ガーゴイルを思わせる寓話的な絵、異形の創造両区が描き出した現実の様相だ」と指摘している。
1965年から66年にLSDを体験して大きな変化があったことも語っている。また「文明全体が商業主義で出来上がっている。かつては独自の文化を誇った。それが何百年も経つうちに変化して消えてしまった。現代人には何のコンセプトもない。頭にあるのはいかに金を生むか。人間はもっと知的好奇心を持つべきだ」と痛烈に批判する。かと思えば「僕は女の脚が好きだ。脚でオルガズムに達する」などと独特な性的嗜好を告白するなど、唯一無二のクラムの世界は、衝撃的で刺激的な魅力にあふれている。
(2022年2月18日公開)