「ブルー・バイユー」米国の移民政策に翻弄された韓国系アメリカ人青年の苦闘

(2022年2月9日20:20)

「ブルー・バイユー」米国の移民政策に翻弄された韓国系アメリカ人青年の苦闘
「ブルー・バイユー」(©2021 Focus Features, LLC.)(2月11(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー)(配給:パルコ ユニバーサル)

韓国で生まれ3歳の頃にアメリカに養子に出された青年が、30年以上前の書類の不備で国外追放命令を受け、二度と戻れない危機に陥り苦闘する姿をスタイリッシュな映像で描いたヒューマンドラマ。「トワイライト」シリーズなどに出演している韓国系アメリカ人の俳優で監督のジャスティン・チョンが主演し監督・脚本も務めた。2021年カンヌ国際映画祭に出品され8分間におよぶスタンディングオベーションで喝采を浴びた感動作。

■ストーリー

韓国系アメリカ人のアントニオ(ジャスティン・ジョン)は、ルイジアナ州のミシシッピ川の三角州地帯にあるバイユーと呼ばれる沼地がある地域で、シングルマザーのキャシー(アリシア・ヴィキャンデル)と結婚して、彼女の連れ子の7歳の少女ジェシー(シドニー・コワルスケ)と3人で幸福な生活を送っていた。アントニオは町のタトゥーショップでタトゥ―アーテイストとして仕事をしていたがキャシーが妊娠し、収入不足になるために別の仕事を探すが窃盗の前科があり上手くいかなかった。そうしたなかキャシーの前夫の白人警官エース(マーク・オブライエン)と、彼の同僚で差別意識丸出しの警官デニー(エモリー・コーエン)がアントニオに目をつけ、スーパーで執拗に絡んだ挙句強引に逮捕してしまう。キャシーが保釈金を払って留置場に迎えに行くと、アントニオは移民局に身柄を引き渡され、30年以上前の養子縁組の書類に不備があるとして国外退去命令を受ける。韓国で生まれ3歳の頃にアメリカ人の家庭に養子として引き取られ、その後アメリカで育ったアントニオだが、アメリカの市民権がないことをそのとき初めて知らされる。裁判で争うための弁護士費用5000ドル(約57万5000円)はアントニオには重すぎ、昔のバイク窃盗仲間を頼って泥沼にはまっていくなど次第に追い詰められていく。

■見どころ

韓国から養子として米国の家庭に迎えられるが後に書類の不備で韓国に強制送還された例は少なくいといわれ、監督はそうした当事者たちのインタビューを基に脚本を書いたという。人種のるつぼであり自由の国であるはずのアメリカで、書類の不備を理由に救済措置もなく強制的に国外退去させられるケースが存在するという移民政策の問題をこの映画は正面から描く。心優しく妻のキャシーや連れ子のジェシーに愛されながらも移民問題に翻弄される韓国系アメリカ人の青年を、自身も韓国系アメリカ人の俳優で監督のジャスティン・チョンが熱演している。16ミリフィルムで撮影された映像が美しい。花が咲き乱れる沼地の美しい風景や、沼の中に子供が沈んでいく映像や、それを引き戻そうとする小舟に乗った母らしき韓国女性のおぼろげな映像がこの映画の象徴的なシーンとして登場している。またアントニオとキャシー、娘のジェシーが戯れるハッピーなシーンから、一転して白人警官の攻撃や逮捕、そして強制送還命令が下され一気に緊迫してゆく展開はリアルで移民大国アメリカの闇を浮き彫りにしている。
(2月11(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー)