「ザ・ユナイテッド・ステイツVS.ビリー・ホリデイ」 「奇妙な果実」をめぐる天才シンガーと米政府の闘い

(2022年2月7日16:30)

「ザ・ユナイテッド・ステイツVS.ビリー・ホリデイ」 「奇妙な果実」をめぐる天才シンガーと米政府の闘い
「ザ・ユナイテッド・ステイツVS.ビリー・ホリデイ」(2 月 11 日(金・祝)新宿ピカデリー他全国公開)(© 2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC. )(配給:ギャガ)

アメリカ南部の人種差別の惨状を歌った「奇妙な果実」(Strange Fruit)が公民権運動を扇動するとして歌唱を禁じられただけでなく、米連邦麻薬局から執拗に狙われながらも信念を貫き通した天才ジャズシンガー、ビリー・ホリデイ(1959年7月17日、44歳没)の半生を描いた伝記映画。ホリデイを同作が初の本格的演技となる歌手のアンドラ・デイが演じて第78回ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞。第93回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。劇中「ジャジーでソウルフル」といわれる歌声でホリデイのヒットナンバーや「奇妙な果実」を熱唱している。

■ストーリー

1940年代、天才ジャズシンガーとして絶大な人気を誇りライブは連日満員のビリー・ホリデイ(アンドラ・デイ)だったが、黒人が木に吊るされ殺害されるなどの南部の黒人差別の惨状を歌った曲「奇妙な果実」は、政府から「公民権運動を扇動する」「黒人の反乱を助長する歌」と危険視され歌うことを禁じられて不満を募らせ、一方では麻薬ヘロインに手を出していた。
そうしたなか、連邦麻薬局長官ハリー・アンスリンガー(ギャレット・へドランド)は、捜査官のジミー・フレッチャー(トレヴァンテ・ローズ)をホリデイの熱心なファンの米兵に偽装させて彼女に接近させ、麻薬使用の情報を集めさせていた。そしてホリデイはヘロイン所持の現行犯で逮捕され懲役1年の実刑判決を受けて服役する。
1年後に出所したホリデイはカーネギーホールを満員にして熱狂させ復帰を果たす。だが、労働許可証がもらえず歌えないでいた。そんなホリデイに当局とコネがあるジョン・レヴィ(トーン・ベル)が目をつけて裏金を使ってライブをやらせ、ホリデイを搾取する。アンスリンガー長官は再びホリデイを麻薬で逮捕して潰そうと画策。レヴィを抱き込んで逮捕するが、現場に立ち会った捜査官のフレッチャーが裁判でホリデイを救う証言をして無罪となり、やがて2人は結ばれるが、アンスリンガー長官の執拗な工作はさらにエスカレートしてホリデイを追い詰めてゆく。

■見どころ

歌手のアンドラ・デイが圧倒的な歌唱力で数々のジャズのヒット曲を歌いホリデイを熱演している。彼女は11歳の時にビリー・ホリデイのパフォーマンスに感動して歌手を目指したという。アンドラ・デイという歌手名はホリデイのニックネーム「レディ・デイ」をオマージュしたものだという。さらに彼女の2015年の曲「ライズ・アップ」は「#BlackLivesMatter](黒人の命も大切だ)の運動のデモで歌われたこともあり、まさにはまり役となった。
全国ツアーの途中に立ち寄った場所で黒人の家が焼かれ「正義はなされた」と書かれた布を巻いた黒人の母親の死体が木に吊るされ、子供たちが泣く残酷なリンチの光景を目の当たりにしたホリデイが、意を決したようにライブで「南部の木には奇妙な果実が吊るされている…」と「奇妙な果実」を熱唱するシーンは圧巻だ。「KKKに対抗『奇妙な果実』歌う」とマスコミが報じ、アンスリンガー長官は激怒して壊滅工作をエスカレートさせる。
この映画は当時の米国の過酷な人種差別の実態と、それを維持して黒人の「反乱」を暴力的に抑え込もうとする政府の思惑を改めて浮き彫りにした。そして「奇妙な果実」を葬り去ろうとするFBIや連邦麻薬局の執拗な弾圧に屈せず歌い続けたホリデイの不屈の生き様がスクリーンに甦る。
(2022年2 月 11 日(金・祝)新宿ピカデリー他全国公開)