ドイツ・ベルリンの博物館で楔形文字の研究をしている女性学者がある企業が極秘に行っている高性能のAIアンドロイドと生活を共にして評価するという実験に参加するうちにハンサムなAIに恋をしてしまうドラマを描いた異色の映画。アンドロイドに二枚目俳優のダン・スティーヴンス。女性学者に同作でベルリン国際映画祭の史上初の性別を問わない最優秀俳優賞（銀熊賞）を受賞したマレン・エッゲルト、2人の実験を見守る相談員にザンドラ・ヒュラーなどのキャスト。Netflixのドラマ「アンオーソドックス」でエミー賞リミテッドシリーズ部門で監督賞を受賞した女優で監督のマリア・シュラーダーが監督・脚本・製作総指揮を務めた。

■ストーリー

ベルリンのベルガモン博物館で楔形文字の研究をしている学者のアルマ（マレン・エッゲルト）はある日、研究資金を稼ぐために、テラレカ社が極秘で行っている特別な実験に参加する。会場に行くと様々なカップルが酒を飲んで談笑したり踊ったりしていた。そして相談員の女性（ザンドラ・ヒュラー）から紺碧の瞳でアルマを見つめるハンサムなトムに引き合わされる。積極的にアルマを口説くトムは、全ドイツ人女性の恋愛データを学習し、アルマの性格に合わせてニーズに完ぺきに応えられるようにプログラムされた高性能のAIアンドロイド（人造人間）だった。トムは「アルマを幸せにする」ことを任務に、3週間の実験期間で過去の傷から恋愛を遠ざけていたアルマの心を変えるミッションにまい進する。最初は恋愛関係になることを頑なに拒絶していたアルマだったが、研究の不備を指摘してくれるなど彼女の心の琴線を揺さぶるトムの優しさや学習した高度な知識などスーパーなトムにいつしか心を動かされていく。

■見どころ

ダン・スティーヴンス演じる高性能アンドロイドのトムが英語訛りのドイツ語を駆使して、ウイットに富んだセリフや奇抜な行動などが時にユーモラスに、また人間以上に繊細で高度な知識で活動する姿に目を奪われる。そしてアルマが取り組んでいた研究がブラジルのチームに先に発表されていたことをトムが発見してアルマはショックを受け、酒をあおってトムに絡み、そして一線を越えてトムの完璧な性行為に感動するも、恋することは拒否するなど知性と感情のはざまで揺れ動くアルマをマレン・エッゲルトが絵空事には感じさせないほどリアルに熱演している。こんな高度なアンドロイドが将来実現することがあるとしたら、やはりアルマのように心が揺れ動いたり、逆に深い孤独を感じたりするのだろうかと考えさせられる映画だ。
（2022年1月14日（金）新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー）