「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」ヴァイオリンの美しい旋律に秘められた衝撃の歴史的悲劇

(2021年21月5日11:00)

「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」ヴァイオリンの美しい旋律に秘められた衝撃の歴史的悲劇
「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」(東京・新宿区の新宿ピカデリー)

第2次世界大戦下のロンドンで出会い兄弟のように育った少年のマーティンとヴァイオリンに秀でていたドヴィルは、青年になりドヴィルは将来有望な天才ヴァイオリニストに成長したがデビューコンサートを迎えた日に突然姿を消してしまう。そして35年後にマーティンがドヴィルを探し出して再会して衝撃の真相が浮上する。ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺を背景にした音楽ミステリー。
マーティンに「海の上のピアニスト」(1998年)などのティム・ロス。天才ヴァイオリニストのドヴィルにクライヴ・オーエン、マーティンの父親ギルバートにスタンリー・タウンゼント、マーティンのパートナー、ヘレンにキャサリン・マコーミック、少年時代のマーティンとドヴィルにミシャ・ハンドリーとルーク・ドイルなどのキャスト。監督は「レッド・バイオリン」(1998年)、日本・カナダ・イタリア合作映画「シルク/SILK」、さらには東京ディズニーリゾートに誕生したシルク・ドゥ・ソレイユの常設劇場の演出を担当したカナダ出身のフランソワ・ジラール。台湾出身のオーストラリア人ヴァイオリニストレイ・チェンがヴァイオリン演奏を担当している。

■ストーリー

第二次世界大戦が勃発するなか、ロンドンに住む9歳の少年マーティンの家に同い年のポーランド系ユダヤ人で類まれなヴァイオリンの才能を持つドヴィルが引っ越してくる。彼の才能を見込んだマーティンの父親が家に住まわせ支援したのだった。自分の才能をひけらかし不遜な態度をとるドヴィルに最初は反発していたマーティンだったがやがて打ち解けて2人は兄弟のように仲良く育つ。やがてドヴィルが21歳になり華々しくデビューを飾るコンサート当日に、ドヴィルは会場に現れず突如失踪してしまう。それから35年後マーティンはコンクールの審査員を務めているときにドヴィルの面影を感じるヴァイオリニストに出会い彼からドヴィルの消息の手がかりをつかんで、ドヴィルの家族が住んでいたポーランドに飛ぶ。捜索は難航するがやがてニューヨークに住んでいたドヴィルと再会を果たし、失踪で家族が損害を被ったことなどを非難し償いとしてコンサートを行うことを要求する。一方、ドヴィルは35年前の失踪事件の衝撃的な真相を語り始める。

■見どころ

少年時代のドヴィル(ルーク・ドイル)の天才的なヴァイオリン演奏など映画に登場する演奏シーンは圧巻で、まるでクラシックコンサートにいるような臨場感があり思わず聞き入ってしまう。本編を飾るクラシック楽曲は、パガニーニ「24の奇想曲」、ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲 第1番」、ベートーヴェン「6つのバガテル」、ヴィエニャフスキ「創作主題による華麗な変奏曲」、クライスラー「愛の悲しみ」、バッハ「シャコンヌ」などだという。
そして少年時代の9歳のマーティンとドヴィル、失踪する前の21歳の青年時代の2人、35年後の2人の3つの時代を行き来しながら数奇なドヴィルの運命が描かれている。35年後にドヴィルを探すマーティンの旅がサスペンスタッチで進み、そしてデビューコンサートの日にドヴィルの身に起きた衝撃液な出来事が浮上していく展開は圧巻で、名優ティム・ロスとクライヴ・オーエンの競演で感動的なラストが待ち受ける。そうしたなか、ナチス・ドイツがポーランドのユダヤ人絶滅を目的にしたトレブリンカ強制収容所で犠牲になったユダヤ人の名前を忘れないために、歌で伝承してその後名簿にして残していたユダヤ人のコミュニティーの存在が描かれる。歌い手が澄んで美しい歌声で無数の名前を歌っていく絶唱にユダヤ人虐殺の残虐な歴史が浮かび上がって胸を揺さぶられる。大戦中にポーランドに侵攻したナチス・ドイツとユダヤ人絶滅の強制収容所とトとユダヤ人のドヴィルの家族の命運と天才ヴァイオリニスト・ドヴィルの決意を圧倒的なヴァイオリン演奏と共にクライヴ・オーエンが熱演している。
(2021年12月3日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー)