「MINAMATA―ミナマター」ジョニー・デップが水俣病を撮った写真家ユージン・スミスの苦闘を熱演

(2021年9月25日10:30)

「MINAMATA―ミナマター」ジョニー・デップが水俣病を撮った写真家ユージン・スミスの苦闘をが熱演
「MINAMATAーミナマター」 (東京・渋谷区のシネクイント)

米国の写真家ユージン・スミスと当時の妻アイリーン・美緒子・スミスが1975年に発表した写真集「MINAMATA」を映画化した作品。夫妻は熊本県水俣市の現地に家を借りて1971年9月から3年間にわたってチッソが引き起こした水俣病や患者たちとその家族などの取材を行い、同写真集の英語版を出版して世界中で大きな反響を呼んだ。映画は夫妻の激動の現地取材活動を中心に描いている。ジョニー・デップが生前のスミスをほうふつとさせるひげや眼鏡などで演じ、アイリーンを日本の女優・美波が演じている。チッソとの闘争のリーダーに真田広之、運動に参加している患者役で加瀬亮、スミスに協力する胎児性水俣病の少女の父親役で浅野忠信、その妻に岩瀬晶子、チッソの社長役で國村隼人など日本人俳優も多数出演している。
監督・脚本・プロデューサーを務めたのは画家・彫刻家として活躍し映画製作会社メタルワーク・ピクチャーズを立ち上げ「Lullaby」(14年、現代)で長編監督デビューを果たし、「ホワイト・クロウ伝説のダンサー」(18年)などのプロデュ―サーを担当したアンドリュー・レヴィタス。大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」の音楽や、アカデミー賞作曲賞を受賞した「ラストエンペラー」(87年、ベルナルド・ベルトルッチ監督)の音楽などで知られる坂本龍一が音楽を担当した。

■ストーリー

1971年のニューヨーク。アメリカを代表する写真家の一人のユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、酒におぼれすさんだ生活をしていた。ある日アイリーンと名乗る女性(美波)が通訳として富士フィルムのCMの仕事でスタジオ兼自宅を訪れ、帰り際に熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質で苦しむ人々がいるので撮影してほしいといって写真が入った封筒をスミスに預けていく。最初は封筒に見向きもしなかったスミスだが、1945年、第二次世界大戦末期の沖縄戦を取材して砲弾の爆風を受けて重傷を負ったときの夢をみて目が覚め取りつかれたように封筒に入った写真を見てプロのカメラマンとしての魂を揺さぶられる。かつて仕事をしていた写真雑誌「ライフ」の編集部に乗り込み会議中のボス、ロバート・”ボブ“・ヘイズ(ビル・ナイ)に直談判して水俣の特集を組むことを取り付ける。そしてアイリーンを通訳兼アシスタントとして帯同して現地に乗り込み、水俣病患者やその家族、ヤマザキ(真田広之)をリーダーとする抗議活動と会社側の激しい弾圧などを取材してシャッターを切りまくった。

そうしたなか、スミスはチッソの社長ノジマ(國村隼人)に呼び出され壮大な工場の内部を見せられれ、2人だけになったときに5万ドル(当時のレートで約1500万円)の大金が入った封筒を手渡され、撮影したすべてのフィルムを引き渡し米国に帰るよう持ち掛けられる。また活動の拠点で大量のフィルムや現像した写真があった小屋を何者かに放火され、抗議行動を撮影中にガードマン数人に倒されて蹴られシャッターを押す右手を足で踏みつけられるなど激しい暴行をうけて大けがをする。追い詰められたスミスは水俣病患者の家族らを集めて写真撮影に協力してほしいと訴える。

■見どころ

「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのコミカルな海賊ジャック・スパローで一躍世界中の人気者になり、「シザーハンズ」、「チャーリーとチョコレート工場」(05年)、「アリス・イン・ワンダーランド」シリーズなど一連のティム・バートン監督の映画で独創的な役柄を演じたジョニー・デップがまるで別人のようになってユージン・スミスになり切り、日本の水俣病という公害にカメラを向け世界に発信するというシリアスな役柄を演じ切り、これまで見たことのないデップがスクリーンに躍動している。
プロデューサーにも加わっているデップはフランスからリモートで日本向けの記者会見をして「プロデューサーとして参加することにまったく迷いはなかった。これは作られるべき映画だと思った」という。「水俣の多くの人達が環境汚染で苦しんだ。そして、いまも世界中で同じようなことが繰り返されている。水俣の人が辿った軌跡を見てもらい、企業の腐敗が見逃されることがあってはいけない」という。さらに「私たちはいま、ウィルスと戦争をしている。そうした意味でもこの時代に観てもらうべき作品」などと語っている。またアイリーンさん本人と会いスミスさんの話や水俣での取材活動について詳しく聞いたという。

ドキュメント映画のようにリアルで、写真集「MINAMATA」の中でも有名な、胎児性水俣病の少女・上村智子さん(1956年~1977年)を母親が抱いて入浴させている写真「入浴する智子と母」の撮影が再現される場面など見るものの魂を揺さぶるシーンが続く。デップは一つ一つの表情に意味を持たせる繊細な演技を見せエモーショナルに激動の社会派ドラマを演じてハリウッドのトップスターの存在感を見せている。

■アイリーンさんのコメント

ユージン・スミスは1975年に「MINAMATA」出版後アイリーン・美緒子・スミスさんと離婚し、1978年10月、59歳で亡くなった。アイリーンさんは後に再婚して子供をもうけ京都市に在住し、水俣で撮影した写真の著作権管理を行う「アイリーン。・アーカイブ」を設立。反原発・環境保護団体「グリーン・アクション」の代表を務めているという。

アイリーンさんは本作の映画に「私の知るユージンは、決して諦めず、何があっても真実と向き合う人でした。何より大切にしていたことは、被写体と写真を受け止める側、両者への責任でした。その大切さを私は今改めて深く感じています。映画を観た後、それぞれが感じたことを胸に自分の花を咲かせてほしいです。」(「MINAMATA―ミナマター」の公式サイトから)とコメントしている。


■坂本龍一のコメント

音楽を担当した坂本龍一は「ミナマタに悲劇をもたらしたことと同じことが、その後も世界中で起きていると思います。その意味でミナマタは決して過去のことではないという気持ちで音楽を担当しました。」(同)とコメントを寄せた。
(2021年9月23日から全国公開中)