「いとみち」三味線にかけた少女の“津軽弁青春ムービー”の快作

(2021年6月28日14:15)

「いとみち」三味線にかけた少女の“津軽弁青春ムービー”の快作
「いとみち」(東京・渋谷区のユーロスペース)

三味線が得意な青森・弘前市の素朴で内気な女子高生・相馬いとが、メイド珈琲店でアルバイトをしながら、津軽三味線の名手の祖母と亡き母親から受け継いだ三味線に取り組む決意をするまでの紆余曲折を描いた作品。越谷オサムの青春小説「いとみち」を、青森県出身の女優・駒井漣、父親に豊川悦司などのキャストで映画化した。監督・脚本は青森市出身の横浜聡子。また青森市出身で青森市観光大使の古坂大魔王、津軽三味線の巨匠・故高橋竹山の最初の弟子の西川洋子、ジョナゴールド&とき(りんご娘)、アルプス乙女、ライスボールなど青森を代表する才能が集まり、青森市、弘前市などでロケした“津軽弁青春ムービー”の快作になっている。

■ストーリー

津軽弁訛りと人見知りのせいで、友人も少ないが根は“じょっぱり”(意地っ張り)の相馬いと(駒井漣)は、母親を病気で亡くし、民俗学の大学教授の父親・耕一(豊川悦司)、祖母・ハツヱ(西川洋子)と3人で暮らしていた。祖母と母親は津軽三味線の名手で、いとも三味線を特技としていたが、母親が亡くなってからは三味線を手にしなくなっていた。ある日一念発起したいとは青森市内のメイド珈琲店でアルバイトを始めたことがきっかけで、店や高校の仲間や家族との絆をはぐくんで成長してゆく。そうしたなか、ある事件がきっかけでメイド珈琲店が閉店の危機に陥った時、いとは三味線で珈琲店を救おうと立ち上がる。

■見どころ

青森の大自然を舞台に”津軽弁少女“いとの悩みや喜びや決意、ドジな失敗や成功などを駒井漣が津軽弁で話しながら鮮烈に演じてスクリーンのニュー・ヒロインが誕生した。結婚して東京から弘前市に移り住んだいとの父親役の豊川悦司や、メイド喫茶で働くシングルマザーを演じる黒川芽衣、同僚の漫画家を目指す智美役の横田真悠、店長役の中島歩は標準語のセリフだが、いと役の駒井をはじめ津軽弁が飛び交い意味が分からないところもあったが、次第に慣れ、いとたちの世界に引き込まれてゆく。タイトルの「いとみち」とは三味線を弾く時に弦の摩擦でできる左の人差し指のつま先のくぼみのことを指すという。いとの祖母役の西川洋子は津軽三味線の名手・高橋竹山(1910年~1998年)の最初の弟子で、三味線を演奏していとに教えるシーンも登場する。そしてクライマックスでいとが津軽三味線を演奏するシーンは圧巻だ。
(2021年6月25日より全国ロードショー)