「赤い闇 スターリンの冷たい大地」ソ連がひた隠しにした大飢餓を命がけで取材した英国人記者の壮絶な闘い

(2020年8月1日11:00)

「赤い闇 スターリンの冷たい大地」ソ連がひた隠しにした大飢餓を命がけで取材した英国人記者の壮絶な闘い
「赤い闇 スターリンの冷たい大地」(恵比寿ガーデンシネマ)

スターリンの独裁政権下のソ連がひた隠しにしていたウクライナの大飢餓を潜入取材した英国人記者ガレス・ジョーンズの実話を題材にした作品。ジョーンズに「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」などのジェームズ・ノートン、モスクワ支局の女性記者エイダにヴァネッサ・カービー、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局の記者ウォルターにピーター・サースガード、作家のジョージ・オーウェルにジョゼフ・マウルなどのキャストで、「太陽と月に背いて」「ソハの地下水道」などで知られるアグネシュカ・ホランド監督が映画化した。

■ストーリー

第二次世界大戦がはじまる6年前の1933年、ヒトラーに取材した経験がある若き英国人記者ガレス・ジョーンズは、世界恐慌の中、スターリンのソ連が繁栄を誇示しているのを疑問に思いソ連に行く。取材が難航する中、モスクワ支局の女性記者エイダから「謎はウクライナにある」と告げられ、同行する関係者の目を盗んで途中で列車を降りてウクライナに潜入すると、そこには悪夢のような飢饉が蔓延していた。ソ連の執拗な妨害工作や、ソ連に抱き込まれていたニューヨーク・タイムズのモスクワ支局の記者ウォルターからも邪魔される中、命がけの取材を続けてウクライナの秘密を握る。ソ連の追及の手を逃れてロンドンに帰り上司に報告するが、ソ連を刺激したくない英国の思惑も働き握りつぶされてしまう。はたしてジョーンズのスクープは闇に葬られるのかーというストーリー。

■みどころ

スターリンの独裁政権下のソ連の”闇“に不屈の記者魂で迫って行くジョーンズ記者の命がけの取材と、それによって明るみに出たウクライナの大飢饉という事実が、ソ連の執拗な妨害と英国のソ連に対する忖度のはざまで闇に葬り去られようとする過程がスリリングに描かれている。世界恐慌の中でなぜソ連が繁栄を誇っているのかという疑問からスタートして取材を開始したジョーンズ記者のジャーナリストとしてのセンスや驚異的な取材力がリアルに再現される。そして1924年のレーニンの死後、29年にわたってソ連の独裁者として君臨したスターリンのトロツキー暗殺などの大粛清や、農業集団化政策が行き詰まり1931年と32年には凶作が重なって100万人以上の餓死者が出たとされる。その後のソ連や中国、北朝鮮などに影響を与えたスターリン主義の問題を改め考えさせられる作品になっている。(2020年8月14日公開)