「海辺の映画館―キネマの玉手箱」 反戦・平和のメッセージと映像美の奔流に圧倒される大林信彦監督の渾身の“遺言”

(2020年8月1日11:00)

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」 反戦・平和のメッセージと映像美の奔流に圧倒される大林信彦監督の渾身の“遺言作品”
「海辺の映画館 キネマの玉手箱」(TOHOシネマズ新宿)

4月10日に肺がんのため82歳で死去した大林宜彦監督の”戦争三部作“といわれる「この空の花-長岡花火物語」(2011年)、「野のなななのか」(2014年)、「花筐/HANAGATAMI」(2017年)の集大成ともいうべき反戦・平和のメッセージが色濃く打ち出された遺作。厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦が演じる3人の若い男と、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜が演じる彼らの運命のヒロインとなる3人の女性を中心にドラマが展開する。さらに小林稔侍、高橋幸宏、白石加代子、尾美としのり、武田鉄矢、南原清隆、片岡鶴太郎、柄本時生、村田雄浩、稲垣吾郎、蛭子能収、浅野忠信などなど多彩で豪華なキャストが総出演で大林監督の「映画への情熱」と「反戦・平和の想い」をスクリーンに焼き付ける。
当初4月10日に公開予定だったが新型コロナ感染拡大の影響で延期され7月31日に公開の運びとなった。大林監督は公開予定日だった4月10日に亡くなった。

■ストーリー

尾道の海辺にある映画館「瀬戸内シネマ」が閉館を迎え、最終日はオールナイトで「日本の戦争映画大特集」が上映された。映画を観ていた青年の毬男(厚木)、鳳介(細山田)、茂(細田)は、嵐の夜に劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの世界にタイムリープ。スクリーンで繰り広げられる江戸時代から、幕末、戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争の沖縄などのそれぞれの戦争に入り込んでいく。映画の中で出会った希子(吉田)、一美(成海)、和子(山崎)らヒロインたちが、戦争の犠牲となっていく姿を目の当りにして彼女たちを守るために戦う。そして広島に原子爆弾が投下される前夜に広島で出会った移動劇団「桜隊」の被爆の運命を変えようと奔走する。

■みどころ

大林監督の反戦・平和のメッセージと独特な映像美が奔流のように全編にあふれ、豪華なキャストがそれぞれ熱演しており圧倒される。さまざまな時代の戦争と重ねるようにサイレント、トーキー、カラー、戦争アクション、時代劇、ミュージカル、ラブロマンスなどが繰り広げられ、文字通り「キネマの玉手箱」の映画になっている。さらには映画館の映写技師役の小林稔侍、切符売り場の女性を演じている白石加代子、坂本龍馬役の武田鉄矢など多彩なベテラン俳優が脇を固めているのも見どころだ。上映時間は2時間の契約だったところを大幅にオーバーして3時間近い長尺になったが、ゼロ号試写を見た誰もが「このままがいい」といいノーカットで上映されることになったという。大林監督は「僕たちが映画を作ればその映画がきっと未来を作ってくれる。映画で歴史を変えることはできないが、未来の歴史を変えることはできるかもしれない」と語っていたというが、今作はその思いを全面展開した2時間59分の大作になっている。
(7月31日公開)