Plusalphatodayツイッター

「i―新聞記者ドキュメント―」 政権の闇やジャーナリズムの危機に迫る女性記者の迫真のドキュメント

(2019年11月16日)

「i―新聞記者ドキュメント―」 ジャーナリズムの危機と闘う名物女性記者の迫真のドキュメント
「i―新聞記者ドキュメント―」」(東京・渋谷区のユーロスペース)

菅官房長官の定例記者会見で官房長官から木で鼻をくくったような回答をされ、司会者から発言を妨害されながらも、鋭い質問を続けて注目されている東京新聞社会部の望月衣塑子記者が、今最もホットな事件や政治問題などを精力的に取材する姿を追跡しながら、日本が今抱えている様々な問題や、安倍政権の闇、それを報道する日本のジャーナリズムの危機などを追求した迫真のドキュメント映画。監督はオウム真理教に迫った「A」、「A2」、ゴーストライター騒動の佐村河内守を題材にした「FAKE」などで知られる映画監督で作家の森達也。

望月記者のノンフィクションの著書「新聞記者」を原案にして松坂桃李、シム・ウンギョンなどのキャストでフィクションとして映画化した「新聞記者」が6月に公開されて話題を呼んだが、「i-新聞記者ドキュメント-」はノンフィクション「新聞記者」をベースに森監督の視点を入れながらドキュメント映画にした内容になっている。

■見どころ

望月記者の多岐にわたる取材活動をカメラが追う。沖縄に飛び辺野古の米軍基地建設工事で埋め立てに大量の赤土が使われ自然環境破壊につながると現地で激しく反発している問題を取材。ボートに乗って海上から埋め立て工事現場のカメラを向けると盛り上がった赤い土が映し出される。東京に戻って記事にして菅官房長官の定例会見で赤土問題を質問すると「事実に基づかない質問には答えられない」などと、質問そのものを封じる官房長官。さらには「質問内容に移ってください」などと質問が聞き取れなくなるような声で露骨に横槍を入れる司会者。さらには妨害行為を司会者らに激しく追及する望月記者。会見では望月記者を援護するほかの記者の質問はほとんどなく、記者たちが黙々とタイプを打つ音だけが聞こえる異様な光景が映し出される。

さらには保釈された森本学園の籠池泰典被告夫妻のインタビュー。加計学園の獣医学部新設の問題で、「総理のご意向」などといわれたという文書について、文科省が当初確認できていないと言っていたが、実際は存在することを記者会見で公表した前川喜平元文部科学省事務次官の取材。ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏から性暴力を受けたとして慰謝料など1100万円の損害賠償を求めた民事裁判の取材と伊藤さんのインタビューなど、安倍政権の問題に直結する問題などを粘り強く追及する取材に密着して、政権の闇とジャーナリズムの危機を浮かび上がらせる。

前出の辺野古赤土問題を沖縄の新聞を筆頭に東京新聞や朝日新聞などが1面トップで報じるなか、1面の下の方に掲載する政権寄りとされる読売新聞の紙面が映し出される。さらには今年2月の沖縄の県民投票で72%が辺野古移設に反対票を投じたのに、「反対は(投票しなかった人も含めて)県民全体の30%」などとにわかには信じがたい報道をする新聞。記者会見で事前に質問の内容を提出するように言われて驚き記者会見は政権を守るためにあるのかという海外記者、「報道事変―なぜこの国では自由に質問できなくなったか」(朝日新聞出版)などの著書がある朝日新聞政治部記者で新聞労連委員長・南彰氏なども登場してジャーナリズムの現場を語り、官邸の横暴やジャーナリズムの衰退が予想以上に深刻なことが浮かび上がる。そして圧力に屈せず核心にストレートに迫っていく望月記者のハンパないジャーナリスト魂、バイタリティ、突撃取材ぶりや2児の母親で娘と電話するシーン、夫が作った弁当を食べるプライベートな部分も垣間見ることが出来る濃密なドキュメント映画になっている。
(2019年11月15日公開)