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「ひとよ」 佐藤健らが母親の殺人事件で崩壊した家族の苦悩と再生を熱演

(2019年11月10日)

「ひとよ」 佐藤健らが母親の殺人事件で崩壊した家族の苦悩と再生を熱演
「ひとよ」(TOHOシネマズ新宿)

佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子など演技派ぞろいのキャストで、母親の殺人事件をめぐる一家の相克やそれを取り巻く社会の問題を徹底的に抉り出して、家族の崩壊と再生の問題に迫った話題作。原作は劇作家・演出家・俳優の桑原裕子が旗揚げした劇団KAKUTAの15周年記念作品の舞台「ひとよ」。監督は、「凶悪」(2013年)、「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年)、「孤狼の血」(2018年)など、これまで手掛けた作品が6年間で作品・監督・俳優部門で60以上の受賞を果たすなど日本の映画界を牽引する白石和彌。

■ストーリー

田舎町の小さなタクシー会社を経営する稲村家の母・稲村こはる(田中裕子)は、3人の子供たちが夫の激しい暴力に苦しんでいるのを見かねて、土砂降りの雨の夜にタクシーで夫をひき殺してしまう。そして子供たちに「これであなたたちは自由に生きられる」「15年後に戻って来る」と言い残してパトカーで連行されてゆく。その”ひと(一)夜“から15年後、長男・大樹(鈴木亮平)、次男・雄二(佐藤健)、長女・園子(松岡茉優)は、事件で受けた衝撃やセンセーショナルな報道、いじめなどによる心の傷と重荷を抱えながら大人になっていた。そこに刑期を終えた母親が約束通りに帰ってきて一家は再会をはたす。園子は母親を受け入れるが、東京に出て雑誌記者になっていた雄二は母親を受け入れられず、事件を記事にしようとする。また長男の大樹は妻から離婚を迫られるなど一家は様々な問題を抱えたまま、やり場のない怒りや苦悩をぶつけ合う。はたして一家は再生できるのかというストーリー。

■見どころ

母親が子供を守るために父親を殺して服役するという極限状況にさらされた3兄弟が、帰ってきた母親をめぐって、それぞれの想いをぶつけ合い苦悩といくつもの試練にもがく姿を演技派俳優4人が熱演している。子供を守るために殺人を犯し、15年後に家に戻って家族を取り戻そうとする母親を田中裕子がしたたかに繊細に演じて存在感を見せている。そして佐藤健は母親を受け入れられず屈折した思いを抱える次男を、佐藤健は母親を受け入れられず屈折した思いを抱える次男を、そして松岡茉はあれた生活を送るなか母親が帰ってきたことを喜び家族の再生を願う長女を、鈴木亮平が幼少期から吃音のために人とのコミュニケーションが苦手な朴訥な長男を、それぞれ個性的な演技で熱演している。この白石作品もまた、作品・監督・演技賞など本年度映画賞の有力候補になって来ることが予想される。
(2019年11月8日公開)