「バイス」 クリスチャン・ベールがチェイニー副大統領を”激似演技”

(2019年4月7日)

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  • 「バイス」(TOHOシネマズ渋谷)

ジョージ・W・ブッシュ大統領を支え9.11米同時多発テロ後にイラク戦争を仕掛けるなど“影の大統領”と呼ばれてらつ腕を振るったディック・チェイニー副大統領を描いた社会派エンターテインメント。徹底した役作りで知られるクリスチャン・ベールが20キロ体重を増やし、毎回5時間かかる特殊メイクでチェイニー副大統領になり切った熱演ぶりが話題になった。当時の政権の要人たちがすべて実名で登場する。監督「マネー・ショート 華麗なる大逆転」や「アントマン」などのアダム・マッケイでブラッド・ピットが製作を担当した。

1960年代半ば、ワイオミングの電気工だったチェイニーは酒癖が悪く飲酒運転で逮捕されるなどして後の妻となるリンにっこっぴどく叱られながら、やがて政界の道を目指す。下院議員だったラムズフェルドの下で実利主義的な政治を学び大統領首席補佐官、国務長官として活躍後に政界から身を引くが、ブッシュ大統領に口説かれて副大統領になり”影の大統領“といわれるほど権力をふるい、9.11米同時多発テロ後に「イラクが大量破壊兵器を保有」と情報操作してイラク侵攻に突き進んでいく。

ベールは本人の面影がほとんどないほどに変貌してチェイニーにそっくりと話題になった。アカデミー賞では作品賞など8部門でノミネートされ、メイクアップ&スタイリング賞を受賞した。ベールは主演男優賞は逸したがゴールデングローブ賞の主演男優賞を受賞している。ほかにもブッシュ大統領を演じたサム・ロックウェル、ラムズフェルド国防長官役のスティーブ・カレル、チェイニー夫人役のエイミー・アダムスやコリン・パウエル国務長官役のタイラー・ペリーなど当時のブッシュ政権の要人たちにかなり似せていてなんともリアルな臨場感がある。

タイトルの「バイス」は副大統領の意味だが、悪徳とか邪悪という意味もあるという。チェイニーの”邪悪”な側面を暴露して、カリカチュアライズした描写はハリウッドならではの徹底ぶりで小気味いい。イラクは実は大量破壊兵器を保有していなかったことが後に明らかになった問題は、「記者たち 衝撃と畏怖の真実」でも描かれているが、「バイス」は政権内部から描き、「記者たち」はそれを追求するマスコミの側からのアプローチで、2本合わせてみると当時の米国の政治とイラク戦争とマスコミの舞台裏が垣間見えてくる。(2019年4月5日公開)