演劇「昭和残照伝々・悲恋」 「シラノ・ド・ベルジュラック」を日本の太平洋戦争直前に置き換えた注目の舞台

(2022年12月4日10:45)

演劇「昭和残照伝々・悲恋」 「シラノ・ド・ベルジュラック」を日本の太平洋戦争直前に置き換えた注目の舞台
「昭和残照伝々・悲恋」の出演者(前列左端が作・演出の大谷朗)

「シラノ・ド・ベルジュラック」を日本の太平洋戦争直前に置き換えたユニークな演劇「昭和残照伝々・悲恋」(作・演出、大谷朗)(12月3日~7日、東京・渋谷伝承ホール)が上演されている。

■ストーリー

演劇「昭和残照伝々・悲恋」 「シラノ・ド・ベルジュラック」を日本の太平洋戦争直前に置き換えた注目の舞台

昭和16年(1941年)の春、新宿のはずれで柳水亭喜楽苦一座の芝居が上演されていた。そこにやってきた主人公の龍尾(坂本三成)は、投げ銭と女にうつつを抜かす剣劇役者の喜楽苦(江口信)を酷評して劇場から追い出してしまう。そうしたなか、芝居を観に来ていた無宿の遼(小林宏一)と、妻持ちの特高警察の榊原雄志(橋本禎之)は、芝居見物に来ていた龍尾の幼馴染の玲衣子(山﨑麗央奈)を見染める。実は龍尾も玲衣子に秘めた恋心を抱いていた。
「明日会いたい」との玲子から伝言を受けた龍尾は翌日、待ち合わせの抜け弁天神社に向かうが、喜楽苦が天野組に泣きついて、組員が龍尾を待ち伏せしていた。龍尾は若い遼と健次(中野耀司)の加勢を得て、組員を叩き伏せ、それが縁で無宿の遼と健次は龍尾の明石会に拾われることになる。
そして龍尾は、玲衣子から亮に恋していることを打ち明けられ、愕然とするが、思い直して2人の仲を取り持とうとする。人と話すことの苦手な遼は玲衣子を前に愛を伝えられず四苦八苦しているのを見かねた龍尾は恋の言葉を伝授し、玲衣子と遼の恋は成就する。だが玲衣子に横恋慕する特高の榊原は山下静雄(富山健)ら部下を使って権力をかさに彼女に迫る。さらには龍尾への恨みを抱えた喜楽苦が絡んで事態は急展開していく。

「シラノ・ド・ベルジュラック」を太平洋戦争直前の日本に置き換えたという着想の面白さ、フランスの剣術家として武勇伝も残しているシラノのように龍尾は暴漢と闘い太平洋戦争に突入する軍事政権を守り民衆を徹底的に監視・弾圧する特高警察にも立ち向かう。そして玲衣子との悲恋のドラマ、ヨーコ役で出演している歌手の吉開りりぃが「悲恋」などを生熱唱するなど見せ場の多いエンターテインメントになっている。

■戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」

17世紀のフランスに実在した作家で剣豪のシラノ・ド・ベルジュラックを主人公にしたエドモンド・ロスタン作の戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」は、1892年に初演され世界で繰り返し上演されている演劇の古典的名作として知られる。哲学者、作家、詩人、剣豪と多才だが独特の容姿のシラノは同性の友人は多いが女性からは敬遠されていた。幼馴染のロクサーヌに思いを寄せているが、ロクサーヌから美青年クリスチャンに恋していることを打ち明けられる。クリスチャンもロクサーヌに一目ぼれしていたがうまく愛を告白できず、シラノがラブレターを代筆し、ロクサーヌ邸のバルコニーの下で凡庸な言葉しか言えないクリスチャンに代わって美しい愛の言葉を述べて2人の恋が成就するというくだりは有名。舞台だけでなく何度も映画化され、フランスの名優ジェラール・ドパルデユーがシラノを演じた「シラノ・ド・ベルジュラック」(1990年)などがある。

■作・演出:大谷朗

演劇「昭和残照伝々・悲恋」
大谷朗(公式サイトから)

作・演出の大谷朗氏は、現代演劇協会劇団雲を経て演劇集団円に所属。2000年にプライベートに演劇倶楽部オーズを設立。「東海遊侠伝」「マクベス・ラプソディ」「夏の夜の夢」 「浅草の陽気な女房たち」などの作・演出を手掛けている。特高のボス文五郎役で俳優としても出演している本作について次のようにコメントした。(公式サイトから)

「芝居をはじめて、半世紀以上。今回はエドモンド・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』を日本の昭和、太平洋戦争直前に置き換えました。私が生まれたのは昭和23年。その時、父親が20代後半。まさに戦争ど真ん中の大正生まれの世代。父が語っていたあの頃を想像すると混沌の中の日本と日本人。これに近い映像を今、進行形で嫌と言うほど見せられています。そんな中での生き方をシラノの豪胆さと詩人の魂を借りて語ってみたいと発想したのが出発点です」という。
そして「シェイクスピア等の古典作品を(原作に敬意を払いつつ)本来の原作世界から抜け出し、日本のある時代のある社会に置き換えて、側面や裏面から様々に物語り、彼や彼女の人生を描くことで、シェイクスピアや西欧の古典劇をお客様により親しみやすく、身近な新しい物語をとして興味を抱いていただけるようNipponize Shakespeareと呼び上演することにいたしました」としている。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」をベースに江戸時代に置き換えた作品を書き2023年上演予定だという。

■富山健のコメント

演劇「昭和残照伝々・悲恋」
富山健

特高警察の山下静雄を演じている俳優の富山健は同作の見どころを以下のように解説した。
「今回はフランスの名作『シラノ・ド・ベルジュラック』を元にそれを太平洋戦争直前の日本に置き換えたら、という設定で舞台は構成されています。演劇好きでこの原作を知っている方はどの登場人物が誰に当てはまるのか、それを考えながら観ていただくのもおもしろいです。古典劇となると難しく捉えがちですが、作品自体は現代劇として日常にある感情や人間模様を面白おかしく描いていますので、どなたでもわかりやすく観ていただける作品になっています。
今回はとても多種多様なキャストが集まりました。演劇界でずっとご活躍をされている大御所の方からはたまた歌手の方、またプロフィギュアスケーターの方、多方面のエンターテイメントが一同に演劇として会しています。それぞれのよさを集結させていかに1つの演劇に集約されるのかそちらもぜひ注目していただきたいです」