広瀬すず、松坂桃李、横浜流星らが「流浪の月」の初日舞台あいさつで熱く語った

(2022年5月14日15:00)

広瀬すず、松坂桃李、横浜流星らが「流浪の月」の初日舞台あいさつで熱く語った
李相日監督、横浜流星、多部未華子、松坂桃李、広瀬すず(後列左から時計回りで)(「流浪の月」の公式インスタグラムから)

映画「流浪の月」の初日舞台あいさつが13日、都内の映画館で行われ、松坂桃李(33)、広瀬すず(23)、横浜流星(25)、多部未華子(33)、内田也哉子(46)、李相日監督(48)が登壇した。

少女誘拐事件の被害者の10歳の少女・更紗と犯人の19歳の佐伯文が事件から15年後に偶然再会し、それぞれの複雑な思いが絡み合い魂を揺さぶる思わぬ展開が待ち受けるという問題作。李監督をはじめ松坂、広瀬らが同作に込めた思いや撮影のエピソードなどを語った。

■李相日監督「文と更紗の思い、関係性、2人の選択、人生を全面的に肯定したいという思いから出発した」

脚本・監督を担当した李監督は「ひと月前に完成披露試写会がありまして、その壇上で桃李君は、お客さんの前に出るのが楽しみでもあるし、今回は何かすごく怖いと…。『パラサイト』のポン・ジュノ監督からコメントをいただいたんですけれど、その中でも、ものすごい誤解とか偏見をこの映画自身が受ける可能性もある中で、最後まで思いを伝えきっているということをコメントで添えていただきました。どこか踏み絵のようなところもあるし、見方によってはいろんな角度、いろんな思いが膨らむ映画でもあると思うので、そういった意味でぼくらもいつも以上に緊張しているんだと思います」と語った。

そして「ただぼくが原作を手に取って読んで、この映画を始めたいと思ったときに思ったことはただひとつでして、文と更紗という人物、2人の思い、関係性、2人の選択というか人生を、ぼくは全面的に肯定したいという思いから出発しました。2人のみならず、不器用な亮君(横浜の役)だったり、谷さん(文に思いを寄せる女性で多部の役)も、文のお母さん(内田の役)も、映画に出てくる全登場人物たちの生き方というか、生きる姿を大事に映し撮りたいという思いだけで最後まで撮ったつもりです」とこの作品に込めた思いを述べた。
さらに「特にここに来ている俳優の皆さんは今まで以上の挑戦をしているはずです。それぞれの挑戦の種類であったり、挑戦の仕方は違うと思いますけど、自分に高いハードルをものすごく設定して、たくさんの苦悩をして、越えてくれたと思っています。それが見ていただいた皆さんに届いていることを願っています」と俳優陣の挑戦についても言及した。

■広瀬すず「繋がれたなって思う実感が後から湧いてくるような瞬間が間違いなくあって…」

「私自身すごく相手が見えにくかった状況が、お芝居をしている中であったんですけれど、この作品を通して亮君(横浜の役)だったり、文(松坂の役)だったり、向き合っていく中で、なんかこう、これだみたいなものはわからないですけれど、繋がれたなって思う実感が後から湧いてくるような瞬間が間違いなくあって。すごく自分自身肯定しながら前に進んでいくような、みんなのことを信じながらという時間だったなという気がします」と語った。

司会から「お客さんのお顔をご覧になっていかがですか?」と聞かれて「わかりません。すごく直視したいんですけど、怖いって桃李さんも監督もおっしゃっていたんですが、なんかあまり直視できなくて、マスクでよかった…」といって笑わせ「こんなにたくさんの方が初日に足を運んでくださって、感謝申し上げたいなという気持ちでいっぱいです」と観客に感謝した。

■松坂桃李「30代の中で自分の中でとても大きな作品になった」

「原作含めて台本を読んで、文の真実を知れば知るほど、今回自分が佐伯文を演じさせていただく中で、彼の抱えているものをどう自分の中に落とし込むというか、実感として入れていけばいいのか、はかり知れないものが探れば探るほど彼の中で、なんて言うんでしょう、きれいな湖の奥深いさらに奥の奥の方に、潜っていけばいくほど底が見えないといいますか、そこをずーっと探っているような感覚が撮影期間中ずーっとありまして。このような自分の中での経験というか体験みたいなものは今まで味わったことがなかったので頼りになるというものというか、ひっかかりとなるものが全くない状態というのは生れてはじめてだった。自分史上ほんとに一番ハードルといいますかそういうものが高かったのかなあと思います」という。
「でも、ここに立ってくださってる一緒に共演した皆さんと李さんが、本当に寄り添ってくれたおかげで、佐伯文という役と最後まで向き合うことができた。自分は文の一番の理解者というか味方でいられることができたと思います。30代の中で自分の中でとても大きな作品になったと思います」と語った。

■横浜流星「挑戦したいという気持ちの方が強かった」

婚約していた更紗と文の関係を知って更紗に暴力を振るうなど変質してゆく亮というこれまでにない”汚れ役“を演じた横浜は「不安みたいなものは全くなくて。観て下さった方々だったり応援してくださった方々の気持ちを不快な気持ちにさせちゃうんじゃないかというのはあった」というが「この作品においてすごく大事な存在でもあると思うし、なんていうんですかね、亮には亮の思いがあるし、だからこそ自分が一番の理解者でいて、愛を持って生きようと思っていたので、そういう思いはなくて、恐れみたいなものは全くなかったと思う」と語った。そして「25になって、そろそろイメージみたいなものも、方向転換じゃないんですけど、変えて行くのも考えなきゃいけないなという思いがあった中で、こういうチャンスをいただけたので逃したくないというか、挑戦したいという気持ちの方が強かったので、今はこの亮を皆さんがどう感じたのかっていう方が楽しみです」と語った。

■多部未華子「一緒に過ごす時間はとても貴重だった」

文に想いを寄せる谷あゆみを演じた多部は「谷さんは(文の過去を)知らずに、とにかく献身的に支えたいけど、なんかちょっと疑うというか、狂っているのがわからないんだけど、それでも愛する人の故、どうやったらいいかわかんないんだけど、とにかくそばにいて、献身的な女性の役だったんです。シーン数的にも撮影日数的にも少なかったのですが、毎日どのキャラクターも今回苦しみながら演じてらっしゃるんだろうなと日々伝わってきていたんですけど、私もその一人でした」という。
李監督については「事前に調べてすごく厳しい監督とたくさんニュースが出てたので覚悟していったんですけど、もちろん厳しさはあるんですけど、限られた時間の中ですごく谷さんと私に寄り添おうとしているような感覚がして、厳しいという一言では語れないものがあるなっていうのが感じていましたし、一緒に過ごす時間はとても貴重だったなと思います」と語った。

■内田也哉子「人生の言葉にならないものすべてをアトモスフィアに充満させて、説明ではなく、漂わせるということを体現させた映画」

文の母親を演じた内田は「普段は文筆活動をメインにしているんですが、母(樹木希林)も役者ですし、旦那さん(本木雅弘)も役者やってますので、家庭の中であんまりそういう人が多すぎてもということもありますし、そもそも私は姿かたちが母に似ているだけで母のような表現力は全くないので、何回か映画に出させていただいたことはあるんですが。いつも私は好奇心が旺盛な方なので,向こう見ずに、大丈夫だよ演技なんかできなくてもそのまんまでいいよって言ってくれる場合だけ、すごい大きな態度でこうやって出てしまって、こんな皆さんを前にしてすごい後悔をして、この皆さんのストイックな日々を漏れ聞いていると本当に申し訳なかったという気持ちでいっぱいなんですけど」と語った。
そして「本当に私は映画ファンとしてこの作品を見たときに、なんであそこまで李監督が粘り強く作り上げたんだろうという得体のしれない、本当に映画って人生の言葉にならないものすべてアトモスフィアに充満させて、説明ではなく、漂わせるということを、この映画はそれをまさしく体現させた映画だと思うので、一映画ファンとして素晴らしい映画に瞬きする瞬間で終わってしまいますけど。でも3日ぐらいおじゃまして一生忘れられないものとなりました」と述べた。

■撮影監督ホン・ギョンピョ氏がメッセージ

「流浪の月」は韓国の第23回全州国際映画祭(4月28日~5月7日)でワールドプレミア上映され、李監督が出席して同作の撮影監督を担当したホン・ギョンピョ氏と再会し「毎日一緒に飲んでいた」という。
「ホンさんとは行き来がなかなかできなかったので、完成品を映画祭で初めてご覧になって、まあ、映像的な直しはずっとやりとりしていたんですが、音楽が入って字幕が入ったのを初めてご覧になって、言葉でどうこうというのではなくニンマリしてました(笑い)。それが答えだったなと」

ホン氏からの「昨年の夏はコロナ禍による規制と猛暑が続く中、監督とスタッフ、そして素晴らしい俳優さんと共に困難を乗り越えながら撮影を終えることができました。私自身は初めて日本映画への挑戦でしたが言葉が通じない環境の中でも映画を通して皆さんと意思疎通しながら今日こうしてその結果を見ていただくことができて感無量です」などとするメッセージが紹介された。

広瀬すず、松坂桃李、横浜流星らが「流浪の月」の初日舞台あいさつに登壇
「流浪の月」(5月13日(金)全国ロードショー)(©2022「流浪の月」製作委員会)(配給:ギャガ)

■キャストの「推しシーン」

その後、俳優たちがそれぞれの「推しシーン」を紹介した。

多部は少女の更紗が文と隔てるカーテンをめくって文に微笑みかけるシーンを挙げて「瞬きするのももったいないほどのシーンが続く中、やっと1回ふーっとしながら見られるシーン」と説明した。
松坂は「そうですね、作品の中で唯一更紗と文のしあわせな時間というか、なんか象徴されたシーン」という。そして子供時代を演じた白鳥玉季と15年後を演じた広瀬すずについて「大人になってからのすずちゃんとのシンクロというか、見ていて全く違和感がないというか、同じ匂いを感じさせるものがありましたね」と語った。

横浜は松坂と広瀬が終盤のシーンで感情をぶつけ合う、魂を揺さぶるようなシーンを挙げて「お二方の芝居はすごく素敵で、初号(の試写)で見たときにすごく心動かされたシーンだったので、すごく印象に残ったシーンでした。男として文の目線で見たときに、ずっと重いものを抱えていて誰にも何も打ち明けられず、でも更紗にも知られたくないけど知っても欲しい死というところで、文の抱えているものを告白した時にそれを受け止めて、ちょっと文の心が救われるというところで、なんか自分も更紗と同じ気持ちになって文を抱きしめてあげたいなと思ったので、このシーンが好きです」と語った。

そのシーンを振り返って、松坂は「いやあどうでしたかねえ、終わった後もどこを見ているのかわからないュなところを見ていたような気がします」と演技に集中するあまりか撮り終わって呆然となったような様子だったことを明かした。
広瀬も「撮った後の記憶があまりない」といい、「このシーンに向けて結構、前日とかもっと前から、撮影が終わってから監督と3人で話し合いをしたり、監督も文(の演技を)をやってたりしてたんですよ、ホテルで」という。「1人で脱いでましたね部屋で」と李監督。「余計なことで…」と恐縮すると、松坂は「いやいやすごく助かりました」と応えた。そして広瀬は「(その)シーンについて話して撮り切った感がすごいした」という。松坂は「ホンさんが撮り終わって現場から離れるときに『オッケー、最高』っていってたので、そのホンさんの表情に救われた部分があったかもしれないですね」と振り返った。

松坂は内田演じる文の母親が家の庭に植えられた木を引き抜くシーンを挙げた。「言葉以上の、『あなた(息子の文)は外れね』っていうのが伝わってくるものがあった。更紗と出会う前の文の最後の砦がお母さんだったんですけど、そこを思いっきり引っこ抜かれた印象をものすごく受けてて、セリフがいらないっていうのはこういうことを言うんだなというのを感じました」と絶賛した。

広瀬は横浜演じる亮が病院ストレッチャーに乗せられて救急車に運ばれるときに更紗と手を握るシーンを挙げた。スクリーンに映し出されたそのシーンの写真を見て「これは亮君の手なんですけど、この時最後の最後だけすごく美しい手過ぎて現場でぞっとしたというか、手が近いのに触れたら砕けていくような、急なきれいさというか繊細さが、ワーオって試写を見て思って、亮君の手にしてみました」と語った。横浜は「ありがとうございます」と感激し「ほぼほぼ覚えてないんです。無我夢中になりすぎて。この時も必死だったし。そんな風に思っていてくださってたんだと」などと語った。

■「流浪の月」の内容

第17回本屋大賞を受賞した凪良ゆうの同名小説が原作。10歳のときに女児誘拐事件の被害者とされた家内更紗(白鳥玉季)が、事件から15年後、大人(広瀬すず)になり婚約者の中瀬亮(横浜流星)と同棲しているときに、カフェで働いている誘拐犯とされた佐伯文(松坂桃李)と偶然再会再する。更紗と文の思いをないがしろにして、社会や法律が勝手に決めてゆがんだレッテルを張った反社会的な誘拐事件として扱われ、当時19歳の文は少年院に入れられたのだったが、事件当時に文のマンションで一緒に2か月ほど暮らしていた時の解放された自分が甦る。そして2人の思いが交錯し絡み合い”流浪“していく姿を繊細に大胆に描いている。
「フラガール」(2006年)、「悪人」(2010年)、「怒り」(2016年)などで数々の作品賞、監督賞を受賞している李監督が脚本・監督を担当。松坂、広瀬、横浜らが複雑なテーマに挑戦して熱演し、美しい映像とともにそれぞれの登場人物の情感があふれ、既成の概念に問題提起する作品になっている。「パラサイト 半地下の過去」を手掛けた韓国の撮影監督ホン・ギョンピョが撮影監督を担当した。