山内マリコ氏、柚木麻子氏ら作家18人が「原作者として、映画業界の性暴力・性加害撲滅」求める声明

(2022年4月15日14:45)

作家の山内マリコ氏(41)、柚木麻子氏(40)ら作家18人が「原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます」と題したステートメント(声明)を12日、発表した。監督や俳優らの”性加害”やセクハラを女優らが相次いで週刊誌などで告発しているのを受けて、映画の原作者たちが「撲滅」へ声を上げた。

声明の文責は山内氏と柚木氏の2人で、賛同者として芦沢央氏(38)ら16人が名を連ねた。山内氏の小説では「ここは退屈迎えに来て」が橋本愛主演で、「アズミ・ハルコは行方不明」が蒼井優、高畑充希らのキャストで、「あのこは貴族」が門脇麦、水原希子で映画化されている。柚木氏は「伊藤くんA to E」が岡田将生、木村文乃でドラマ化されたのちに映画化された。賛同者の作家らも数多くの小説が映画やドラマ化されている。 声明では「映画制作の現場での性暴力・性加害が明るみに出たことは、原作者という立場で映画に関わる私たちにとっても、無関係ではありません」としたうえで「不均等なパワーバランスによる常態的なハラスメント、身体的な暴力、恫喝などの心理的な暴力等が、業界の体質であるように言われるなかで、今回、女性たちが多大なリスクを背負って性被害を告白したことは、業界の内外を問わず、重く受け止めるべきと考えます。声をあげてくださった方々の勇気に応えたく、私たちは、連帯の意志を表明します」と業界の体質を非難して被害を訴えた女優らに連帯の意思を表明した。
さらに「外部にいて、なおかつ特殊な関係性を持つ原作者である私たちならば、連帯し、声をあげられるのではないかと考えたことが、このステートメントを発表したきっかけです。この声明が、閉じた世界で起こる性加害の抑止力になることを願います」としている。
そして「同時に、出版界でのセクシュアルハラスメントを根絶するために、これまで我々が立ち上がってこなかったことへの自戒と反省でもあり、今後は変えていきたいという意志表明でもあります。そしてまた我々自身も、ハラスメントの加害者になりうるという意識を持たなくてはなりません。映画界が抱える問題は、出版界とも地続きです」と映画界だけではなく出版界にも言及。
「二度とこのような事態が起きないよう、私たちも、契約の段階から、適切な主張をしていきたいと思います。今後、万が一被害があった場合は、原作者としてしかるべき措置を求めていけるよう、行動します。また、このことについての理解と協力を、出版業界にも求めます。私たちは物語を安心して委ねられる映画業界を望みます」と訴えた。

■是枝裕和監督らが声明を発表「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」

3月18日には映画監督の是枝裕和氏、諏訪敦彦氏、岨手由貴子氏、西川美和氏、深田晃司氏、舩橋淳氏の6人が、「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」と題した声明を発表した。賛同人には「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督ら監督や俳優、映画関係者、ジャーナリストなどが名を連ねた。以下声明全文。

「映画監督による新たな暴力行為、性加害が発覚しました。報道されている行為、その内容は決して許されるものではありません。被害にあわれた方々がこれ以上傷つくことがないこと、また当該の映画監督の作品において権限のある立場の関係者は、その現場で同様の問題がなかったかを精査すること、もしあった場合には被害者のために何ができるかを検討することを望みます。「映画に罪はない」と拙速に公開の可否を判断する前に、まず被害者の尊厳を守ることに注力すべきです。
 被害者への誹謗中傷、二次被害、三次被害につながらないための配慮が、メディアにも、私たちにも求められます。

 映画はひとりの力で作ることはできません。監督だけではなく、プロデューサー、技術スタッフ、制作部、演出部、そして俳優部、多くの関係者の協働によって一本の映画が成立します。だからこそ、互いの人格を尊重しあうこと、仕事上の大切なパートナーであるという意識を持つことが必要です。
 特に映画監督は個々の能力や性格に関わらず、他者を演出するという性質上、そこには潜在的な暴力性を孕み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません。だからこそ、映画監督はその暴力性を常に意識し、俳優やスタッフに対し最大限の配慮をし、抑制しなくてはならず、その地位を濫用し、他者を不当にコントロールすべきではありません。ましてや性加害は断じてあってはならないことです。

 撮影現場の外においても、スタッフや俳優の人事に携わることのできる立場にある以上、映画監督は利害関係のある相手に対して、自らの権力を自覚することが求められます。ワークショップのような講師と生徒という力関係が生まれる場ではなおさらです。
 以上のことを、まずは私たち映画監督の立場から書きましたが、プロデューサーや助手を率いるスタッフも、十分に気をつけなくてならないことです。パワハラやセクハラはジェンダーを問わず誰もが加害者、被害者になりえますが、映画業界がいまだに旧態依然とした男性社会であること、性差別が根強いことを考えれば、キャリアのある男性から率先して自身の特権性を省み、慎重に振る舞わなくてはなりません。さらに、その価値観を当然として受け入れてきた女性の監督、プロデューサー、スタッフもまた例外ではないでしょう。

 映画の現場や映画館の運営における加害行為は、最近になって突然増えたわけではありません。残念ながらはるか以前から繰り返されてきました。それがここ数年、勇気を持って声を上げた人たちによって、ようやく表に出るようになったに過ぎません。被害を受けた多くの方がこの業界に失望し、去っていった事実を、私たちは重く受け止めるべきではないでしょうか。
 私たちには、自らが見過ごしてきた悪しき慣習を断ち切り、全ての俳優、スタッフが安全に映画に関わることのできる場を作る責任があります。そのために何ができるかを考え、改善に向けたアクションを起こしてゆきます。

 私たちの声明にご賛同頂ける方は、是非 action4cinema@gmail.com までメッセージをお送りください。
 最後に、イギリスのロイヤル・コートシアターにおいて、2017年にセクシュアル・ハラスメントとパワー・ハラスメント防止策として劇場で働く人々に向けて掲げられた規範の一部を抜粋、引用します。

「私たちは、自分が持っている権力に責任を持たなければならない。
自分より弱い立場にある人たちに対して、その権力を不当に行使しないこと。
自分の欲すること、それを欲する理由、それを手に入れるために自分が何をしているか、そして、その自分の行動がどのような影響を与えるかを考えること。
創作のためのスペースは、安全でなければならない」