「草の響き」公開記念舞台あいさつ 東出昌大、奈緒、斎藤久志監督登壇

(2021年10月9日23:50)

「草の響き」公開記念舞台あいさつ 東出昌大、奈緒、斎藤久志監督登壇
いさつ
舞台挨拶を行った㊧から齋藤久志監督、東出昌大、奈緒(9日、東京・渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷で)

映画「草の響き」の公開を記念して9日、都内の劇場で舞台あいさつが行われ、主演の東出昌大(33)、奈緒(26)、斎藤久志監督(62)が登壇して同作の撮影中のエピソードや見どころについて語った。

「草の響き」は、函館シネマアイリス25周年作品で、函館出身の作家・佐藤泰志没後30年企画として製作された。「海炭市叙景」(2010年)、「そこのみにて光り輝く」、(2014年)、「オーバー・フェンス」(2016年)、「きみの鳥は歌える」(2018年)に続いて佐藤泰志の小説5度目の映画化になる。心に失調をきたして妻と2人で故郷の函館に戻ってきた主人公の工藤和夫に東出昌大。その妻・工藤純子に奈緒、和雄の友人・佐久間研二に大東駿介、和雄と交流する若者にKaya、林裕太、三根有葵などのキャストで、「なにもこわいことはない」(1913年)、「空と瞳とカタツムリ」(2019年)などの斎藤久志監督がメガホンを取った。新宿武蔵野館、ヒューマントラスト有楽町/渋谷ほか全国順次公開中。

■東出「素晴らしい脚本だなあと思って楽しみにしていました」

東出は、作品や主人公についてどう思ったかをMCのかとう有花から聞かれ「映画の脚本を読んだんですけど、原作では独身の設定で、研二っていう友人が出てきてっていう話だったんですけど、それが奥さんと夫婦生活を営んでいて奥さんは子供を身ごもっていて、かつ函館の街を走るっていう脚本に変わっていたのが非常に映画的に成功しているというか、成立しているというか、そういう印象を受けたので。原作そのままを映画化することはもしかしたら難しかったかもしれないんですけど、素晴らしい脚本だなあと思って楽しみにしていました」と語った。

函館に約3週間滞在して撮影が行われたが、函館の印象について「すごく空が広くて路面電車が走ってて、海に近い街なので商店街のシャッターとかも海風でちょっとさびてたりして、一種の寂しさはあるんですけども、西日が柔らかくてすごいいい町でしたね」と東出。

■奈緒「役作りは、作らないところに行くっていうのがすごく自分の中では苦労しました」

奈緒は原作には登場しない映画のオリジナルの登場人物である和雄の妻・純子を演じた。「役作りは、作らないところに行くっていうのがすごく自分の中では苦労しました。監督には、お芝居をしないでくれとずっと言われていたので、初日からその壁にはすごくぶつかりましたし、自分の中で純子として函館にいることはどういうことなんだろうというのをずーっと撮影中も模索し続けて、すごく自分の中で手探りで過ごした記憶があります」と振り返った。

奈緒は撮影前に1人で函館に行ったというエピソードも披露した。「タクシーで函館をまわったのですが、運転手さんが偶然にも斎藤監督と同じサイトウさんでご縁を感じました。(笑)いろんなところをサイトウさんと回って、牧場にも連れて行ってくださったり海に連れて行ってくださったんですけど。私の中で函館の印象はすごく広くて、1人で行ったということもあって、すごく遠くまで来たなあという感覚が街に降り立った瞬間にあって。それは空気も違いますし、空も違いますし、景色もがらりと変わって。何より私は南の出身なので九州と比べると海が全然違うなと思いました。一種の神々しさからの恐ろしさみたいなものを感じて、純子が函館に来たときはこういう気持ちになったんじゃないかなと。特に夜海に行ったので波の音も激しくて、人がすごく優しい街だからこそ、1人でいるときの寂しさとの差がすごく激しくて心細い気持ちになりました」という。

「草の響き」公開記念舞台あいさつ 東出昌大、奈緒、斎藤久志監督登壇
(© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS) (新宿武蔵野館・ヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷ほか全国順次公開中)

大東駿介演じる和雄の友人佐久間研二を交えた3人の自然な空気感のあるやり取りが印象的だったが、共演してどうだったかの感想をMCに聞かれて、東出は「みんな芝居をしないっていうことにどうやったら到達できるのかと模索していた日々だったと思います。青年部と大人パートみたいに二つの層に分かれるとしたら、青年部の課題はまた違うところにあるんですけども、僕らはどれだけナチュラルにカメラ前にいるか。でもお芝居ってそもそも嘘ですからね…」と振り返った。

斎藤監督は「3人が勝手に作ってた部分があるんで、メロンを食べるシーンだって、夫婦が犬といてほしかったんで、犬を呼んで2人に犬と一日いてほしいと。子供たち(和雄と交流する3人の若者)のパートを撮ってるときにそうしてもらってたんですけど、そこで大東さんも合流して、3人で俳優だけで自主練してたんです、一日。そのまんまは撮ってないんですけど、そこでずーっと一緒にいる時間があったということが大きかったのかな。大東さんとは東出さんが休みの時に一緒にドライブ行ったりとかしてたようで、こっちは全然あづかり知らないことなんですけど、こういう風に2人が過ごしたんじゃないかという、勝手な俳優さんたちのイメージの中で、そういうことをやってていてくれたということが、何かの空気感になっていたと思います」と東出ら3人のエピソードを明かした。

東出は「東出と和雄がたぶん一緒になった期間みたいのがあるんですけど、奈緒さんも奈緒さんでありながら純子としていつも横にいてくれてたので。ただ本編の和雄は全部それに気づいているかって言ったら違うんですけれども、なんか純子として横にいてくれた時間というのは非常に長かったように思います。ごめんなさい、お芝居の話になると現場は長い時間だから抽象的な言い方しかできないんですけど」と語る。

これを受けて奈緒は「私も夫婦という役をやったことがあまりなくて、夫婦という関係性、それも結婚してすぐとか、そういうことではなくて、2人の仲に一種のひずみが生まれているというスタートだったので、そこは自分の中ですごく難しい部分ではあったんですけど。そういう意味でいうと最初から近いんだけど遠いというか、一番近いところにいるんだけどそれなのにすごく遠く感じてしまうというところは、なんだか一緒にいる時間で、東出さんと一緒にお話をしていく中で、和雄の役を理解したいという自分の気持ちと、純子の本当のことを理解したいという気持ちと、少しづつ合わさっていったような気がします。その中に大東さんがいて下さったことがすごく大きくて、3人のシーンが始まったときに、急に自分の中に流れたものがありました。そこに第三者が入るということで、嫉妬だったりとか普段生活してるとこういう感情が生まれるんだっていう。遠さと近さというのは、大東さんがいらっしゃったときが私はすごく大きかったですね」と語った。

■奈緒「(東出は)すごい怖かったんですよ。全然悪い人じゃないんですけど」

斎藤監督は奈緒が最初東出を怖がっていたというエピソードを”暴露“。「一番最初に車のシーンを撮ったときにがちがちだったじゃないですか。それで一緒に昼めし食べた時に、おれが『東出怖い?』って聞いたら『怖いって』言ってた」というと、奈緒は「なんていうかね、すごい怖かったんですよ。全然悪い人じゃないんですけど」といって笑いを誘った。

そして「すれ違っただけで本当にごあいさつ程度だったので、お話もしてないですし、自分自身のお芝居の不安がいろんなものを恐怖に変えていたので、東出さんのことも怖く見えてしまっていた自分がいて。でも監督から『そんなに怖い奴じゃないんだよ』って。その時に最初のシーンで言っていただいて、そこから私も単純なので『そうなんだ』と思って、少し話しかけてみようって、一緒にお昼食べたりできたのはすごく嬉しかったです」と”怖かった真相”を明かした。

東出は「単純じゃなくて奈緒さんは本当に強い、強くあろうとずっと心がけていらっしゃる方なんだなと思いました」とフォローした。

斎藤監督は「ほぼ順撮りで撮影ができてるんで、助監督が努力してそうしてくれたんですけど、それもよかったんだと思いますね。時系列で順撮りしてますんで、回想シーンがあるんですけど回想シーンを一番最初に撮ってるっていう流れなんで、なんとなくそれぞれの関係ができていく過程で、それは僕が見てても、あ、この瞬間に純子になったなっていうのがあったりするんです。それまでよそよそしかったものが、家の中での動き方とか仕草とかほんの些細な事なんだけど、仲がいい夫婦って今関係が崩れたとしてもかつては仲が良くて付き合って夫婦になっている関係なんで、近づき方とか他人ではない距離感がどうしてもあって、そういうことっていうのは、だけど仲が悪いっていう感じを出すための立ち位置の置き方とか考えてはいるんですけど、そういうことを徐々にする中で、だんだんと2人の関係が見えていったなという風に思います」と解説した。

「草の響き」公開記念舞台あいさつ 東出昌大、奈緒、斎藤久志監督登壇
(© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS)

その後、東出が「監督が奈緒さんに惚れてたのはわかりましたよ。なんか撮影中からもう奈緒さんのシーン凄い嬉しそうに撮ってらしたのを覚えてます」と”暴露“すると、監督はそれを遮って「東出に会いたくて会いたくて毎日…おれがね」と東出に”告白“して「え?監督が?何怖いこと言ってるんですか」と東出が返して爆笑となる場面もあった。

斎藤監督は「大東と東出の2人のからみが観てて楽しかったね。すっとただ去っていくだけとかね、そういう大東駿介を見ていると泣きそうになった」というと、東出は「カメラの前に立つっていう機会は少ないので、特別なものだっていう意識は根底にありながらも、ただなるべく高尚なものにすぎないようにしようみたいなところがちょっとあって。だから大東君と2人で土手を歩く芝居があるんですけど、何回も結構な数セリフ合わせして、そんなのをナチュラルに作りこんでいく現場ってなかなかないので、なんか非常に豊かな映画の時間が現場に流れていたように思います」と振り返った。

■斎藤監督「考える要素もありますけど感じてくれれば」「ゆったりと観ていただければ嬉しい」

最後に一言ずつコメントを求められ、斎藤監督は「物語とかテーマ、意味は当然にしてあるんですが、映画ってそれだけではできていないんですね。その瞬間、例えば東出の背景に映ってる光とか、その時吹いた風とか、子供たちのところでいうと、スケートボードを滑っている少年の姿とか、そういうことを、これはどういう意味だっていうことだけでなく、僕の映画としては初めて5.1chサラウンドというのを意図的に狙って作りましたんで、体感していただけるとありがたいです。考える要素もありますけど感じてくれればそこから、それぞれのお客さんの中にある答えっていうのがあるんで、こちらが狙っていることとは違ってもいいと思います。それがこの映画の答えだと思っていますんで、そんなに堅苦しく考えないでゆったりと観ていただければ嬉しいです」と語った。

奈緒は「私自身この時にしか撮れなかったもの、それは函館の景色もそうですし、一つ一つ奇跡のような瞬間が詰まっている映画だと思います。映画すべてそうだと思うんですが、ぜひ皆さんの大切な五感でこの映画を受けとってくださったら嬉しいです。最後まで楽しんでください」

そして東出が「本当に考えるよりも感じた方が多分この映画っていうのは深く受け止められるんじゃないかなあと思います。きっといい映画だと僕は思っています。ただ受け止め方は、当たり前のようなことを言うんですけど、名シーンみたいなのを力を入れて撮っているということはなく、ずーっとゆるい大河の川の、流れのようにずーっと続く日常を定点カメラで撮り続けているだけなので、ただ感じて頂ければ、この映画の真価と言ったらおこがましいんですけれども、魅力みたいなものを持ち帰っていただけるのではないかなと思うので楽しみにしてください」と締めくくった。