ドキュメンタリー「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント

(2026年8月8日9:30)

ドキュメンタリー「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
「叛逆のサウンドトラック」ポスタービジュアル
ドキュメンタリー「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
トークイベントを行った菊地成孔氏(7日、東京・渋谷区のBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下)

陰謀渦巻く歴史の闇をジャズが直撃、未体験の凄まじいドキュメンタリー「叛逆のサウンドトラック」が7 日、公開になり音楽家・文筆家の菊地成孔さんのトークイベントが都内で行われた。

菊地さんは紹介を受けた後、1 人で登壇してすぐ「非常にマッシヴな作品なので、見終わった後噛みしめる時間もなく私が出てくるのもどうかと思うのですが…。渋谷の太陽が一番今晴天に向かっていまして、来る時に焼け死ぬかと思いました。30分ほど涼しい話をさせて 頂いて、その後渋谷の太陽をまた楽しんで」と語り始める。

「この回は日本公開の初回なので、皆さんが日本で最初に見た方々、ということになります。まとめて解説して欲しいと思う方もいらっしゃると思うのですが、そういう方はパンフレットが素晴らしいので。アフリカンカルチャーの研究家で早稲田大学の中村隆之先生が最初の原稿を書いています。その次に 私が書いた比較的長い8000字の原稿があります。一読だけだと何書いてあるのか分かんないような奴なんですけど(笑)。この作品は、DJプレイに近いと思っています。政治ドキュメ ンタリーとも音楽映画とも捕えられない微妙な位置にいて、DJプレイが一番近いのかなと思います。DJプレイを突き詰めていく根拠というのは、前の曲と次の曲が似ている、相似性と、象徴性が頼りです。この映画はその事がよく見て取れる」と解説した。

そして本作の監督について「ヨハン・グリモンプレというベルギー人の監督で、僕と同じ63歳です。世代論にしてしまってはいけないのですが、監督の気持ちがすごくわかるんですね。このパンフに書けなかったもの、(今夜の)イベントで話せないものを話したいと思う」と語った。

「まずはジャン・リュック・ゴダールとの関係。ゴダールの政治性は、センスが良くて抽象性に満ちています。この映画も、かなり“ほのめかす”ことが多いです。ウォルト・ディズニーがなぜ出てくるかわからなかった方、多いと思います。ウォルト・ディズニーの潜水艦だよと言って『かかか』って笑うところがあるのですが、キューバ危機でキューバの核兵器を積んだ潜水艦がアメリカに近づいたのですが、 ディズニーランドの潜水艦だよ、そんなに騒ぐなよフルシチョフ、という小ギャグが入っています」と解説。

「また、ディジー・ガレズビーは、ルイ・アームストロングと似てるんですよね。なので、区別がつかなくなる可能性を、この映画はすごく持っています。パトリス・ルムンバはそもそも相貌をそんなに知られていません。ルムンバとマルコムXは見ようによっては相貌がそっくり。最初にマルコムXに対する質問で『あなたに顔が似ているパトリス・ルムンバは…』とでてきます」と指摘。

「この映画を100回近く見ています。ゴダールの系譜に入れて良いかどうか、という事は考えました。普通のドキュメントではない。D・ガレスピーの大統領選出馬キャンペーンが出てきますけど、あれ、64年の、動乱も収まった時期の話なんで、画面が動乱前の60年の状態であれが飛び込んでくるのはシャッフルになるし、全く関係ないフッテージも使ったりしています」と明かした。

この後、本作でヨットに乗った傭兵たちが出てくるが、そのコンゴでの行いを撮ったために問題になったグァルティエロ・ヤコベッティ監督の『さらばアフリカ』の話、コンゴの国の名前が5回変わったこと、「政治が何か(映像、音楽等)と混じる時、必ず重合関係になっている。重合体はサラダドレッシングのようなもの。交合体の代表はカフェオレです。一度混ざったら、時間が経っても分離しない。混合はしない、重合体になって、重合の恩恵にはあずかれる。混合物にはなりえない」など、菊地さんらしいトークが続き、楽しいト ークショーは終了した。

登壇者:菊地成孔 (音楽家/文筆家/音楽講師)
ジャズメンとして活動、軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽・著述活動を旺盛に展開し、ラジオ・テレビ番組でのナヴィゲー ター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画・テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価 が高い。「一個人にその全仕事をフォローするのは不可能」と言われるほどの驚異的な多彩さでありながら、総ての仕事に一貫する高い実験性と大衆 性、独特のエロティシズムと異形のインテリジェンスによって性別、年齢、国籍を越えた高い支持を集めつづけている。現代の東京の知性と感性を代表する存在。

■「叛逆のサウンドトラック」歴史の闇を抉り出すジャズ狂騒詩曲 1961年2月のある朝、歌手のアビー・リンカーンとドラマーのマックス・ローチは、新たに独立したコンゴの首相パトリス・ルムンバの 殺害に抗議するため、国連安全保障理事会に突入した。
約60人の抗議者たちが、不意を衝かれた警備員たちにパンチを浴びせ、ピンヒールを叩きつけ、ショックを受けた外交官たちは見守るだけだ…その瞬間、世界は“脱植民地化”という名の地殻変動に飲み込まれていく。希望と混乱が入り混じる、新しい時代の幕開けだった。 この映画で描かれる、尊厳、主権、自由を取り戻そうとする闘いは、より大きなうねりとなって現在進行形のままである。

全編実録映像と音楽、インサートされるデザイン化されたテキスト。
ルイ・アームストロング、マルコム X、ディジー・ガレスピー、フルシチョフソ連第一書記、ジョン・コルトレーン、ハマーショルド国連事務 総長、フィデル・カストロ、アート・ブレイキー、アイゼンハワー米国大統領、ニーナ・シモン、スカルノ伝説的な音楽家、思想家、政治 家、軍人、スパイたちが入り乱れる歴史の闇をダイナミックな編集とリズム感で暴き出し、一瞬も目を離せない。

コンゴ動乱の真相が余すことなく語られる。
ベルギー領コンゴが 1960 年 6 月 30 日にコンゴ共和国として独立して間もなく、クーデターが起き、首相ルムンバ惨殺されるが、その死後も 1965 年まで続くいわゆるコンゴ動乱においてベルギー政府と米国が積極的に関与したことを余すことなく証言によって語ら せている。

女性革命家アンドレ・ブルアンに着目。
ポスターのど真ん中に座る女性、「黒いパショナリア(女性活動家)」の異名をとるアンドレ・ブルアンは、ルムンバのスピーチ・ライター を担い、ルムンバ失脚を狙うベルギーの裏合意を暴く極秘文書を欧州で発表するなど、女性革命家として数々の命の危機を乗り越 えながら活動を続けた。歴史の表舞台には出にくい、アフリカ女性たちの解放に力を入れた女性の革命家ブルアンに着目した意義は 大きい。

世界を変えるための希望。
ルムンバの時代を想起する本作には否認しがたい希望が示されている。ルムンバ、マルコム X、ンクルマ(ガーナ初代首相)、カストロなど、高潔な大義を掲げた政治的指導者、また彼らとともに闘ったアンドレ・ブルアンなどが語る、記録された言葉は、数十年以上の歳月を経て、私たちのもとに今こうして届いているもちろん、本作を観たことで世界を急に変えることはできるはずはない。しかし、 自分のなかの何かが変わることは十分にありうる。たとえば、この映画を観たのち、マックス・ローチが叩く音のなかに、アビー・リンカーンの深い声のなかに、私たちは自由へのための戦いの音色を聞き取らないことなどどうしたらできようか。世界を変えるための一 歩とは、私たち一人ひとりの小さな変容からはじまる。

「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
「叛逆のサウンドトラック」場面写真、アンドレ・ブルアン(中央)
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
アビー・リンカーン
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
ルイ・アームストロング
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
キューバのカストロ首相㊧とソ連のフルシチョフ首相
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント
 
ディジー・ガレスピー
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
ニーナ・シモン
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
第2代国連事務総長ハマー・ショルド
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
ベルギーのポードゥアン国王(中央)
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
マックス・ローチ
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
マルコムX
「叛逆のサウンドトラック」 音楽家・文筆家の菊地成孔氏が初日トークイベント 
パトリス・ルムンバ(コンゴ共和国初代首相)



【作品概要】
タイトル:『叛逆のサウンドトラック』
出演:ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ジョン・コルトレーン、ニーナ・シモン、アート・ブレイキー、セ ロニアス・モンク、オーネット・コールマン、パトリス・ルムンバ、マルコム X、アンドレ・ブルアン、ニキータ・フルシチョフ、ダグ・ハマーショルド、フ ィデル・カストロ、ドワイト.D.アイゼンハワー、ジャワハルラール・ネール、ガマール.A.ナセル、スカルノ、クワメ・ンクルマ、イン・コリ・ジャン・ボファ ン
監督・脚本:ヨハン・グリモンプレ 製作:ダーン・ミリウス、レミ・グレレティ
編集:リック・シャウベット サウンドデザイン:ランコ・パウコヴィッチ
2024年/ベルギー・フランス・オランダ/156 分/16:9/5.1ch 原題:Soundtrack to a Coup d’Etat 日本語字幕:山口三平
© 2024 ONOMATOPEE FILMS BV, WARBOYS FILMS S.A.S., ZAP-O-MATIK, BALDR FILM,RTBF, VRT, JOHAN GRIMONPREZ
配給:オンリー・ハーツ
http://hangyaku.onlyhearts.co.jp
8月7日より Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、UPLINK 吉祥寺他にて公開中