「太陽と踊らせて」イビサ島の伝説的DJジョン・サ・トリンサに密着したドキュメント

(2021年7月23日16:20)

イビサ島の伝説的DJジョン・サ・トリンサに密着したドキュメント
「太陽と踊らせて」(© Pure in the Moon)

地中海に浮かぶ世界遺産のイビサ島は、夏場には収容人数5000人の「Amnesia」などの主要クラブをはじめとした有名ナイトクラブが店を開け、世界からスターDJが集まりハリウッドのセレブもやってきて世界一のパーティ―アイランドとして有名だ。そうしたクラブミュージックの最先端を行く大箱クラブの派手なパーティサウンドとは一線を画して、島の最南端サリナスビーチで25年間DJを続けているDJジョン・サ・トリンサに密着したドキュメント映画。
ジャンルにこだわらないバレアリック・ミュージックと呼ばれるジョンの音楽スタイルは自由で垣根のない生き方をする彼の生き方そのものといわれる。1987 年にロンドンでDJのキャリアをスタートしたジョンは1994年にイビサ島に移住。サリナスビーチにあるサ・トリンサというレストランに併設された小さなチリンギート(海小屋)のDJブースで正午から日が沈むまで1日8時間ほどDJをして、世界中からジョンの音楽を聴きに来る人たちに音楽を流し極上の時間を提供している。
映画ではトリンサの音楽や音楽に対する考え方だけでなく自由なライフスタイルを紹介するとともに、イビサ島の多彩な文化や美しい自然も描いている。

イビサ島の伝説的DJジョン・サ・トリンサに密着したドキュメント
ジョンの拠点の「サ・トリンサ」(「太陽と踊らせて」=© Pure in the Moon)

ジョンはイビサについて「イビサに住むというのは実は結構難しい。ここにいるなら現実と空想のバランスを保たないといけない、ドラッグなどとの距離感も含めてね。どんなクリエイティブも、想像力膨らませつつも現実を見つめる必要がある。だから僕の頭は雲の中に浮いているけど、地に足をつけた生活を送っている。多くの人は気づいてないかもしれないけど、この島は自然や海が織りなす平和な日常があって、散歩するだけで幸せになれるんだ」という。
そして「音楽は人々を恋に落とすことができる」というジョンは「映画を観た人に何を感じて欲しい?」という質問に「DJ観が変わるかもしれないね。僕のDJスタイルはバレリアックだ、つまり形作れないものを形作っている。普通のDJは、ヒップホップやハウス、ソウルなど1つのジャンルのみ流すけど、バレリアックはジャンルの万華鏡でどんな曲だって繋いじゃう。子供の頃学校の先生から、僕の音楽への執着心は将来悪影響を及ぼすかもしれないと言われていた。その頃から続く音楽への愛が今の人生を形成してるんだから、先生の言ってることなんてあてにならない」と答えている。
「ドキュメンタリーを撮りたい言われた時にどう思った?」との質問には「Are you sure(本気か)?何の変哲もないおっさんをとるのかい」って思ったよ。僕は毎日DJっていう好きな事を続けていただけで、それを映画にして面白いのかって、心配になった。でもこの映画をきっかけに過去の記憶を辿る旅に出かけられたのは良かった。あと僕みたいな自由人がいるって事で、ビジーライフを過ごしている現代人がリラックスしてくれるといいね」と語った。

監督は台湾人の両親を持ち新宿歌舞伎町で育ったという異色の経歴を持つリリー・リエナ。テレビ局や大手広告代理店に勤めた後に20代の終わりに日本から飛び出してニューヨークで映像作家を目指すうちに、旅で出会ったDJジョン・サ・トリンサの音楽に衝撃を受け、貯金と日米のクラウドファンディングで集めた資金をもとに、3年の歳月をかけて監督として初の長編ドキュメンタリーを完成させた。イビサ島のクラブミュージックといえば大物DJカルヴィン・ハリスらが出演するほか、パリス・ヒルトンがDJとして長期契約をして話題を呼んだ。また、レオナルド・デイカプリオやジャスティン・ビーバー、オーランド・ブルームなどハリウッドセレブも多数バカンスを過ごすことでも知られる。そうしたイビサのクラブシーンの対極でDJを続ける独自の音楽スタイルや生き方や人柄は個性的で存在感があり魅了される。ジョンを取り巻くファンやミュージシャンがジョンの音楽について語っているインタビューにも注目だ。
(2021年7月24日(土)より新宿K’s cinema、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開)