「デッドロック」ドイツ映画界の鬼才ローラント・クリック監督の伝説のカルト映画

(2021年5月13日16:10)

「デッドロック」ドイツ映画界の鬼才ローラント・クリック監督の伝説のカルト映画
殺し屋サンシャイン (© Filmgalerie451)

ドイツ映画界の鬼才ローラント・クリック監督による1970年製作の伝説のカルト映画で、スピルバーグ監督やアレハンドロ・ホドロスキー監督、クエンティン・タランティーノ監督が絶賛したという異色作。アメリカの荒野を舞台に殺し屋たちが100万ドルの争奪戦を展開する。同作はカンヌ映画祭でコンペティション部門に出品のオファーを受けるが、ドイツ国内の監督や批評家から、映画が商業的すぎて、当時勃興していたライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督、ヴェルナー・ヘルツオーク監督、ヴィム・ヴェンダース監督らに代表されるニュー・ジャーマン・シネマを貶めるとして正式出品を反対され、特別上映された。その後ドイツ国内でヒットしてドイツ映画長編作品賞を受賞した。その後、イタリアからマカロニ・ウエスタンのオファーが殺到するがすべて断り、TVドキュメンタリー「DERBY FIEBERSA」でドイツ映画賞を受賞。デニス・ホッパー主演の「White Star」(1983年)で84年のドイツ映画長編作品賞を受賞。その後テレビのコメディドラマを製作したのを最後に映画製作から離れていたが2008年にベルリンの名画座でクリック作品が上映されたのをきっかけに再注目されて評価が高まり、スピルバーグ監督らが「デッドロック」を絶賛して影響を受けたことを認めたという。2013年にドキュメンタリー映画「ローラント・クリック:心は飢えた狩人」が製作された。

「デッドロック」ドイツ映画界の鬼才ローラント・クリック監督の伝説のカルト映画
サンシャインに追われるダム (© Filmgalerie451)

■ストーリー

閉鎖された鉱山デッドロックの監督官チャールズ・ダム(マリオ・アドルフ)は、太陽が容赦なく照りつける荒野で行き倒れになっている若い殺し屋キッド(マルクヴァルト・ボーム)と100万ドルの大金が入ったジュラルミンのケースを発見する。キッドを殺して金を奪おうと考えたが殺しきれず、村に連れて帰って介抱してやる。そこには元娼婦のコリンナ(ベティ・シーガル)とその娘とみられる口のきけない美少女ジェシー(マーシャ・べラン)がいた。キッドは負傷した体を癒しジェシーと結ばれるが、数日後にキッドの仲間の非情な殺し屋サンシャイン(アンソニー・ドーソン)がやってきて、ダムをいびりまくって金を奪う。サンシャインは単身逃げようとするがキッドとジェシーが罠を仕掛ける。

「デッドロック」ドイツ映画界の鬼才ローラント・クリック監督の伝説のカルト映画
若い殺し屋キッド (© Filmgalerie451)

■見どころ

アメリカのどこかの砂漠の中の寒村を舞台に(実際は第4次中東戦争前夜、イスラエル軍とヨルダン軍がにらみ合う中東のネヴァ砂漠で撮影されたという)100万ドルの大金をめぐって殺し屋たちが繰り広げる裏切りと陰謀のドラマはスリリングだ。伝説のジャーマン・ロックバンドCAN(カン)のサイケデリックなサウンドトラックが鳴り響き、セルジオ・レオーネ監督の「続・夕陽のガンマン」(1966年)などのマカロニ・ウエスタンをほうふつとさせる内容だが、ヒッピー・カルチャーなど1970年代のカウンターカルチャーのテイストを盛り込んだクリック監督の独特な世界が繰り広げられている。
サム・ペキンパー監督の「ダンディー少佐」(1965年)やジュリアーノ・ジェンマ主演のマカロニ・ウエスタン「さすらいの用心棒/暁のガンマン」(1968年)などに出演しているダム役のマリオ・アドルフ、「007/ドクター・ノオ」(1962年)のボンドの敵役や「レッド・サン」(1971年)、「バラキ」(1972年)などの殺し屋サンシャイン役のアンソニー・ドーソン、ニュー・ジャーマン・シネマを代表する俳優のひとりの若い殺し屋キッド役のマルクヴァルド・ボームの3人が強烈な個性を見せて熱演している。またミステリアスな美少女役のマーシャ・ラベンはマルクヴァルドとの濃厚なラブシーンを演じるなどヒッピーのような存在感を見せている。
クリック監督は「キネマ旬報」(5月上・下旬合併号)のインタビューで「デッドロック」について「内なる真実をすっかり映画に注ぎ込むことが、私にとって重要なんだ。そうさせてくれるような新しい素材を常に、私は求めてきた。あの時代はたしかに…そう、ヘイトアシュベリー(サンフランシスコのヒッピー文化の発祥地といわれる地区)もあった。ヒッピー・ムーブメント、フラワー・パワー…幻覚…ドラッグ…ティモシー・リアリ―(アメリカの心理学者。ハーバード大学の心理学教授で、マジック・マッシュルーム。KSDなどによる幻覚によって脳の回路を開き意識を拡張する研究を行う)…ドラッグの概念は、「デッドロック」にも影響を与えている」と語った。さらに社会主義ドイツ学生連盟(SDS)のメンバーのルディ・ドゥチュケやパリの学生運動、ドイツ赤軍などの名前を挙げて「私は常にその周辺にいた。それが私の時代だったのだ。私の時代が要請していたもの――それはヘイトアシュベリーの夢を砂漠で描くだけでなく、この都市のこの街路、この場所で起きていることを描くことだった」などと語っている。
(5月15日(土)より新宿K‘s cinemaほか全国順次公開)