「裏アカ」 滝内公美と神尾楓珠が裏アカウントで出会う男女の危険な二面性を熱演

(2021年4月4日11:30)

「裏アカ」 滝内公美と神尾楓珠が裏アカウントで出会う男女の危険な二面性を熱演
「裏アカ」(映画のポスター)

本来のSNSのアカウントとは別に匿名で秘密裏に設けた裏アカウントを通して出会った男女の性の欲望や二面性を隠し持つ葛藤と危険性をテーマにした異色の作品。「火口のふたり」(荒井晴彦監督、2019年)で第93回キネマ旬報の主演女優賞などを受賞した実力派女優の滝内公美と「樹海村」(2021年2月)などの神尾楓珠の2人を中心にして、本作で監督デビューとなった加藤卓也監督がオリジナル脚本で映画化した。

■ストーリー

青山のアパレルショップで店長を務める伊藤真知子(滝内公美)は、自分の意見が採用されず年下のカリスマ店員・新堂さやか(SUMIRE)に仕事を取られるなどストレスがたまる中、 裏アカウントを作って、胸の谷間を強調した写真を投稿すると反響を呼び、快感を覚えて次第に内容がエスカレートしていく。それに伴ってフォロワーが1万人を超えるなど急増する。そうしたなか「ゆーと」を名乗る年下の男(神尾楓珠)から「会いたい」と誘われ、雨の日に会い団地の空き部屋で激しく燃える。だが1度きりの関係だといわれ、真知子は魔性を開花させてほかの男と関係を持つようになってゆく。やがて仕事が好調になり、大手百貨店とのコラボ企画が決まるが、打ち合わせにやってきた百貨店の担当者の原島努があの「ゆーと」だったことから波乱の展開に巻き込まれていく。

■見どころ

滝内公美が裏アカを使って見知らぬ男たちと関係していくという裏の顔を持つ「裏アカの女」をミステリアスに大胆に演じて存在感を見せている。「ゆーと」役の神尾楓珠相手に官能的なセックスシーンを全裸で演じるなど文字通り体当たりの熱演だ。「河口のふたり」でも柄本佑相手に濃密な全裸ベッドシーンを見せているが、その潔さは、ベッドシーンなのに女優の胸を男優がカメラに映らないよう隠したりするような消化不良の演技をあっさりと 越えていき、かといって外連味がなく、その姿勢は女優としての誇りさえ感じさせている。そして真知子の胸の中に生まれた空洞を埋めるような耽美的で虚無的な性行動など裏の言動を描きながら、裏アカなるものが常に一瞬にして「表化」する危険性をはらんでいるというSNSの魔物性を暗示している。(2021年4月2日公開)

「裏アカ」 滝内公美と神尾楓珠が裏アカウントで出会う男女の危険な二面性を熱演
舞台挨拶する滝内公美㊧と加藤卓哉監督(3日、東京・渋谷区のシネクイントで)

■舞台挨拶で加藤卓哉監督と滝内公美が製作意図や撮影秘話を明かす

東京・渋谷区のシネクイントで3日夜、加藤卓哉監督と主演の滝内公美が舞台挨拶を行い、「裏アカ」に込めた思いや撮影秘話などを明かした。

主演の伊藤真知子役で体当たりの熱演を見せた滝内公美は「こういった状況の中で劇場にお越しいただくというのも本当に難しい状況だと思うんですけど、こうして観に来てくださった皆様にご挨拶することができて本当にうれしく思います」とあいさつした。

加藤卓哉監督は「今日はスクリーンで、僕の(監督)デビュー作になるんですけど『裏アカ』を観ていただいて本当にありがとうございます。最近はスマホですとかパソコンとか、そういう環境で映画が手軽に観られるなか、多分ネットフリックスも月額料金高いと思うんですど、映画館にお金払って観に来ていただけるっていうのは本当にうれしいことです」と詰めかけた観客に感謝した。
「企画を考えたのは2015年で今から6年前になるんですけど、本直しとか現場とか仕上げを経て、ようやくお客さんに観てもらえる機会が来て本当にうれしいです。初日は昨日なんですけど、今日も劇場に昔の友達とか知り合いの俳優さんとかいっぱい来て下さって、僕は初めてこういう形で登壇しますので、こういう機会は皆さんに感謝する日なんだなというのを知りました」と監督デビュー作で舞台あいさつに初登壇した感想を語った。

滝内はこの役を引き受けた経緯について「最初に脚本を読ませていただいたときは、真知子のキャラクターが自分からかなりかけ離れたキャラクターで、理解するのが難しかった部分が多かったんですね。なので、どうしようかなあって思ったんですけど。SNSを普段私はあまり活用していない人間なので。でも経験できることがたくさんあるので、そういったかけ離れた役をやるのもやりがいがありますし、加藤監督がご一緒してみたいって言ってくださったことがすごく嬉しかったので。あと、オリジナル脚本だということ。最近は原作ものとかも多いんですけれども、やっぱりオリジナルで勝負するっていうところが魅力的だなと思って、ご一緒させていただきたいと思ったのが一番の決め手ですね」と語った。

加藤監督は「僕は新人監督ですし、オリジナル脚本ですし、女優さんの立場からみるとなかなか話に乗りずらい環境ではあったと思うんですよ。ただ僕は主演やってくださる方には絶対に会ってお話してちゃんと伝えたいというのがあって。それに滝内さんは答えて下さって、お話もできて本当に濃密な準備期間を経て現場に入れたので良かったと思っています」と語った。

撮影で印象に残っていることについて司会から聞かれて滝内は「監督とたくさんディスカッションしたっていうことが印象に残ってますね。リハーサルもたくさんせて頂きましたし、本の直しだったりとかも何回も推敲を重ねてやらせていただいたので、一緒に時間を過ごしたということが一番記憶に残っていることです」という。

加藤監督は木村大作、降旗康夫、原田眞人、成島出といった日本を代表する名監督の助監督を経験している。「助監督を10年ぐらいやってたんですけど、自分がやる気が出るときってどういうときなんだろうと思うと、監督が任せてくれる時だったと思って。監督が全部指示して手足のように動くっていうよりも、お前が考えてお前がいいようにやってみろって任せてくれる方が力が出たなって思った。自分が監督するときも、助監督は2人しかいなかったですし、スタッフも仲いい人もふくめていっぱいいましたけど、なるべく任せて。ほっぽり投げるというのではなくその人たちが主体的に考えて動けるようにと意識してやっていたつもりですね」という。

これを受けて滝内は「そうですね、助監督時代の仲間と言いますか、そういった皆さんで一緒に進んでいった印象がありまして、みんなが監督のために向かっていくという。あと、アイディアを出す人がたくさんいた(笑い)。監督がみんなの意見を聞いて下さる方だったので、どう思うか、どう思うかって。でも最後は監督が決断してくださる方だったので、みんなで作り上げたっていう印象はあります」と滝内。

「ゆーと(神尾楓珠)と初めての(性行為の)とき、ガラスの向こうに表の真知子が出てくるていうカットがあったと思うんですけど、あれも僕が最初にスタッフにこういうことをやりたいんだといって絵コンテ描いたんですけど、みんなにこれじゃつまんないといわれて(笑い)。そこからかなり直して、みんなの意見を聞いて最終的にああいう形になったんです。監督にそういう風に意見を言ってくれるって、自分が監督の時に本当にありがたいなって思った。みんななんとなくこれどうなんだろうって進めていくより、ここはこうなんじゃないですかって言ってくれたし。滝内さんも現場でお芝居のときに、本はこう書いてるけど、私は真知子の気持ちはこうだと思うんだといってくれたので。その皆さんの意見を自分は贅沢に選んで出来たんだなと思います」と撮影現場での裏話を披露した。

撮影は13日間と短期間だったというが、その中で印象に残ったことはと聞かれて加藤監督は「(真知子と)ゆーととの出会いのシーンは雨が降りましたよね。映画の現場って雨が天敵なんですけど、出会いのシーンでああいう風に雨が降って、傘さしてもらったんですけど、あれが初めて会う2人の距離感というかとてもいい具合に作用して。2回目に会うのは普通の日だったと思うんですけど、その日も雨が降ったんですよ。だから撮影は13日間でしたけど、ここで雨が降ってくれたらシーンがつながるというところで降ってくれたりしたので、これは映画の神様というとちょっと仰々しいんですけど、なんかついていたなあって思いました」と印象的な雨のシーンのエピソードを明かした。

滝内は「大衆食堂のシーンなんですけど、いろんな先輩方が自由なお芝居をするので(笑い)、本当に何が起こるかわからないような撮影で、ドキドキするものもありましたし、その場その場の瞬間の反応をしていかなければいけないっていう感じだったんです。あのシーンは木村大作さんという名カメラマンの方が撮って生まれたシーンで、監督のために撮ってくださったんですけど、誰が監督かわからない状況になっていって(笑い)」と㊙エピソードを明かした。

加藤監督は「木村さんは基本フィルムのカメラマンの方なんですけど、今回撮ったカメラはソニーの一番いいカメラを格安で貸してもらって撮ったんです。木村さんにデジタルをのぞいてもらったんです。それは結構業界的にはざわつく出来事だったことかもしれないです。現場で木村さんは最初は黙ってたんですけど、だんだんいつもの調子になってきて、神尾君も『お前こっち向いてしゃべれー』っていわれちゃったんです。神尾君も珍しく『監督ちょっといいですか』って声かけてきて『あのおじさんの言ってることは聞かなくていいですよね』って(笑い)。まあ偉い人だから聞けることは聞こうねっていったんですけど(笑い)」と木村大作の”乱入”のエピソードを明かした。木村は高倉健主演の「八甲田山」(1977年)や「鉄道員(ぽっぽや)」(1999年)、「極道の妻たち」シリーズなど数々の名作・ヒット作の撮影を担当し、「劔岳 点の記」(2009年)などを撮影も兼務して監督を務めている巨匠。その木村がこの映画に参加していたことが明かされた。

加藤監督はトークショーの最後に「自分の表とか裏を決めるのは紛れもない自分自身であって、裏の部分もはたから見たらどちらもあなたでしょってことだと思うんです。最終的に幸せみたいのもそうだと思うんですけど、自分の心が決めることなので。フォロワー数が多いことがいいことだとかは思っていないし、最終的には自分がどう感じてどう動くかということだと思っています。あまりはっきりいうと恥ずかしいから、この映画ではそこはかとなくやったつもりです。真知子の心情を通して皆さんが考えていただくきっかけになればこれ以上うれしいことはないと思っていますので、是非とも口コミとかSNSを通じてこの映画を広めて頂けたらと思っています」と締めくくった。