「Eggs 選ばれたい私たち」 エッグドナーに志願した独身主義者の女性とレズビアンの女性の葛藤と希望

(2021年4月3日12:25)

「Eggs 選ばれたい私たち」 エッグドナーに志願した独身主義者の女性とレズビアンの女性の葛藤と希望
「Eggs 選ばれたい私たち」の葵役・川合空㊧と純子役・寺坂光恵(©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会)

子供のいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した独身主義者の女性とレズビアンの女性の対照的な2人の女性を通して、社会から求められる女性像と実像のずれに悩みながらも「母になりたい」と願う女性たちを自身の体験を交えながら等身大に描いた意欲作。寺坂光恵、川合空などのキャストで、川崎僚監督のオリジナル脚本による長編映画デビュー作。2018年にエストニアの首都タリンで開催された第22回タリン・ブラックナイツ映画祭で日本映画として唯一のコンペティション作品に選出されて国際デビューを飾った。イタリアのレッジョ・エミリアアジア映画祭の正式招待作品にも選ばれた。

■ストーリー

30歳を目前にした独身主義者の純子(寺坂光恵)はエッグドナー(卵子提供者)に志願し、ドナー登録の説明会で偶然従姉妹の葵(川合空)と再会して、恋人に家を追い出された葵は純子の家に転がり込む。葵はレズビアンだと告白するが純子は気にせず、お互いの率直な思いをぶつけ合いながら、2人の奇妙な共同生活が始まる。エッグドナーに選ばれればハワイやマレーシアなどの海外で卵子を摘出する手術を受け謝礼金がもらえる。数か月でドナーの年齢制限の30歳を迎える純子だが、それでもドナー登録をすることを決め、どちらが選ばれるか不安と期待を感じながら、「遺伝子上の母になりたい」という同じ目標に向かって選ばれるために新しい生活を始めるというストーリー。

■見どころ

川崎監督は本サイトとのインタビューで「ドナー登録の説明に行った経験もそうですし、親からのプレッシャーだったりとか同級生の友達の結構つらい話だったりとか、私の経験だし私の友達の物語だし、それを素直に全部さらけ出して、この問題を抱えている女性の気持ちを和らげたいなと思いましたし、何より知らない人に知ってもらいたいなと、理解してもらいたいと思いました」と製作意図について語っている。共同生活を送ることになる純子と葵の視点を通して結婚や恋愛についての多様な考え方や、それに伴う葛藤と希望、エッグドナーに対する「産まなくても母になりたい」という率直な気持ち、さらには生理用品をめぐる2人のやり取りなどを、これまでの映画にはない斬新な切り口と豊かな感性でヴィヴィッドに描写している。寺坂と川合は自然体の演技で存在感を見せドラマを盛り上げこの映画にリアリティを与えている。男性(筆者も)側からすると生理用品の描写(インタビュー記事 参照)など目からうろこのシーンも多々あったのも印象に残った。(2021年4月2日公開)

■初日舞台あいさつ

「Eggs 選ばれたい私たち」 エッグドナーに志願した独身主義者の女性とレズビアンの女性の葛藤と希望
舞台挨拶を行った川崎監督(右から4人目)と川合空(右隣)、寺坂光恵(左から4人目)ら出演者たち(2日、東京・新宿区のテアトル新宿で)

映画「Eggs 選ばれたい私たち」の初日舞台あいさつが2日夜、東京・新宿区のテアトル新宿で行われ川崎僚監督をはじめ寺坂光恵、川合空、三坂知絵子、湯舟すぴか、みやべほの、見里瑞穂、荒木めぐみの女優陣が登壇した。

川崎監督は「コロナの大変な時期に夜の回にこんなにたくさんの方に来ていただいて本当にうれしく思っています」と感謝した。司会者から撮影時の印象的なエピソードについて聞かれ「たくさんあるんですけど、一番大切にしたのは卵のシーンです。冒頭から卵をかき混ぜる音がありますが、卵を何でかき混ぜる音なのかと思われたった方もいると思うんです。30歳になるまでタイムリミットというか、勝手に賞味期限といったものを女性は課せられているような気がして。その時間は均等ではなく、私たちの心情とか状態によってどんどん焦って変わってくるような感じがした。その感情を象徴する音が欲しいなということで卵の音だった」などと明かした。

純子を演じた寺坂は「卵子について無知だったのでそこからの勉強を始めました。30歳を境目にまわりからだったり自分の中からだったり、自分の価値観がぐちゃぐちゃになっていく部分や、卵のシーンとかに向けて感情の作り方や流れをしっかり作りました」と役作りについて語った。
葵役の川合は「レズビアンは初めてやらせていただく役柄だったんですけど、たくさん資料を読んだり、実際にLGBT系の知り合いからお話を聞いたりしました。まずは葵の目線で世界がどう見えているのかというのを自分なりに想像するところから始めました。レズビアンだからこういう演技というわけではなくて、まわりが抱えている問題にきちんと向き合うことで役を作っていった」などと語った。

テアトル新宿では4月3日に川崎監督と女優芋生悠のトークイベント、7日には川崎監督と映画監督・野本梢、映画監督・イリエナナコのトークショーがいずれも午後7時半の上映後に行われる予定。