「めぐみへの誓い」横田めぐみさん拉致・洗脳の冷酷手口や横田さん家族の苦闘を映画化

(2021年2月22日12:30)

「めぐみへの誓い」横田めぐみさん拉致・洗脳の冷酷手口や横田さん家族の苦闘を映画化
「めぐみへの誓い」(東京・西池袋の池袋シネマ・ロサ)

1977年11月17日、横田めぐみさん(当時=13)が北朝鮮の工作員に連れ去られてから43年。小泉政権時代の2002年に曽我ひとみさん、地村保志さん夫妻、蓮池薫さん夫妻の5人の拉致被害者が24年ぶりに日本に帰国して拉致問題が劇的展開を見せたが、その後は1人の被害者も取り戻すことができていない。そうしたなか、横田めぐみさんの拉致事件を題材にした映画「めぐみへの誓い」が2月19日から東京・西池袋の池袋シネマ・ロサなどで公開されている。めぐみさんを襲った想像を絶する恐怖の拉致や北朝鮮での”洗脳教育“、日本で救出に向けて訴え続ける横田滋さんと早紀江さん夫妻の活動。(滋さんはめぐみさんとの再会がかなわないまま昨年6月、87歳で亡くなった)さらには2人の幼子を日本に残して拉致された田口八重子さん(当時=22)が北朝鮮で金賢姫(キム・ヒョンヒ)の教育係になり日本語を教えるエピソードなどがドキュメントタッチで描かれ、残酷非道な事件の真相と救出に向けた被害者家族の想いをスクリーンに焼き付けた。劇団夜想会が2010年から全国で上演している演劇を基に、クラウドファンディングや有志の支援で製作資金が集まり劇団夜想会を主宰する映画監督の野伏翔の監督・脚本で映画化が実現した。

■ストーリー

横田滋さん(原田大二郎)と早紀江さん(石村ともこ)夫妻の長女・めぐみさん(少女時代=坂上梨々愛)は、新潟市の中学校からの帰り道、突然2人組の男に拉致され北朝鮮に向かう船の船倉に放り込まれる。「お母さん、お父さん」と泣き叫ぶめぐみさん。拉致を指揮していた工作員の辛光春(大鶴義丹)は、北朝鮮に着くとめぐみさんを招待所に入れて“洗脳教育”を始める。「我々の期待に背くような真似はするなよ」と脅し朝鮮語を覚えさせ「金日成主席と金正日指導者の教えを守り」日本帝国主義やアメリカ帝国主義と戦い」「南朝鮮を解放する革命を起こす」などと暗唱させられ、間違えずに暗唱できるようになれば日本に帰してやるといわれ、必死で反復練習する。やがて成長しためぐみさん(菜月)は完璧に暗唱できるようになり「日本に帰してください」「警察には言いません」と懇願するが辛は、日本に返すとは言っていないと言い張り抗議するめぐみさんに暴力をふるう。別の招待所では田口八重子さん(安座間美優)が、後に大韓空港爆破事件(1987年)を起こし韓国側に逮捕され死刑囚となるが恩赦を受けた金賢姫(キム・ヒョンヒ)(小林麗菜)の教育係として日本語を教えるエピソードも描かれる。辛に反抗しためぐみさんは強制収容所に入れられ過酷な運命が待ち受ける。一方、北朝鮮は「めぐみさんは死亡した」と主張し遺骨を提出するがDNA鑑定で別人のものだったことが判明するなどずさんな対応に終始し、横田さん夫妻や拉致被害者の家族らは怒りを募らせ「全ての拉致被害者の帰国実現」を街頭で訴え続ける。

■見どころ

めぐみさんが北朝鮮の工作員に拉致され腹部を強打されて意識を失い袋を頭にかぶせられ連れ去られる様子や、船倉に入れられ北朝鮮に向かう時に壁をかきむしって助けを求め爪がはがれてしまうシーンや、北朝鮮での暴行・恫喝は日常茶飯事の過酷な洗脳工作などが生々しく描かれ息をのむ。さらには大鶴義丹演じる北の工作員・辛がたびたび日本に潜入し、秋田にいる内縁の妻・夏仙(仁支川峰子)や部下を使って、拉致のターゲットを物色し、町工場の社長・金本(小松政夫)に若い工場労働者を差し出させるショッキングなエピソードも登場し、ドキュメント映画のようにリアルで生々しく、改めて北朝鮮の卑劣な組織的犯行の実態が浮かび上がる。辛は「日本は簡単に潜入できる。つかまっても強制送還してくれる」などとうそぶき「スパイ天国」といわれる日本の警備の甘さも指摘される。金賢姫の教育係の田口八重子さんが日本に残した幼い子供を思い酒におぼれて泣く日々を送るエピソードも悲惨だ。北朝鮮による拉致の疑いのある特定失踪者は800人に上るという。そのうちの5人しか返還されていないということにも驚かされる。北朝鮮の卑劣極まりない国家的犯罪への怒りと、一向に進展しない拉致問題の不合理・理不尽など、この映画は様々な問題を改めて突き付けてくる。(2021年2月19日公開)